2008.05.10
ゴールデンウイークの真っ只中、東京の日本酒専門酒場の若旦那とお母様が長野市へお見えになり、夜の食事にお誘いを頂きました。
この若旦那は以前2007.12.13のこのコラムにも書かせて頂いた方で、日本酒の啓蒙に全身全霊を傾けており、お店はいつも日本酒を愛するお客様で超満員で、そんな若旦那を私も常日頃から敬愛しております。
このお店、初めて訪問した時から衝撃の連続でした。
まず驚いたのは、お酒の酒類の多さと、その徹底した貯蔵及び提供温度の管理。
今でこそそんな事当たり前と言われそうですが、今から十数年以上前からそれをしっかりと実践していたことはやはり凄い事です。
常時数百本の在庫はそのお酒に合ったベストの状態で保管され、例えば「しぼりたて生原酒」をあえて1年寝かせぬる燗で提供する、そんな、若旦那が最もそのお酒が活きるという思いから生み出されるサプライズもざらです。
そして、とにかくお酒が安い!
銘柄に関係なく、どのお酒も驚くべき値段で提供されます。
正一合、きっちり入れられたお酒は、そのコストパフォーマンスの素晴らしさに、おいしさも倍増します。
これも、お酒の素晴らしさを伝えたいという若旦那の信念からくるものです。
さらにさらに、お母さんが作り出す料理がこれまた感動のおいしさ!
実はこれらのお皿の数々は、レシピも含めて何冊かの本になっている程です。
定番メニューはもちろんの事、その季節によって手を変え品を変え出される料理は、それをお目当てに来るお客様でいつも売り切れ必死です。
そして、それらをひっくるめて、このお店を訪れた誰もが感じるのが、若旦那とお母さんのホスピタリティーの高さです。
日本酒を飲みたいお客様なら、おふたりは心から胸襟(きょうきん)を開いて歓迎して下さいます。
知識は関係ありません。
こんな味のお酒が飲みたい、そんな好みを伝えれば、若旦那はベストの一本を選んで勧めてくれます。
お客様もそんなお店の姿勢をよく分かっていて、お互いに気持ちよく相席は当たり前、そして隣席の見知らぬ客と知らず知らずのうちに打ち解けて、日本酒が媒介する素敵な一夜が過ぎていくのです。
お客様として、全国の蔵元も数多く来店されます。
でもそれは営業とかではなく、ひとえにこのお店が好きで、そして日本酒の魅力を余すことなく伝えてくれるこのお店に最高の敬意を表して、ただ単にひとりの客としてお酒と料理を楽しむために訪問するのです。
僕もそのひとりです。
そして、蔵元の知り合いは全国に数え切れないほどいるにも関わらず、若旦那はその蔵元のお酒を蔵から直接購入することは一切ありません。
必ず酒屋さんを通して購入されています。
その事が日本酒業界が少しでも潤うためになる事を、若旦那はよく分かっているのです。
余談ですが、夏の猛暑でも、1日に出るビール(エビスの小瓶を置いています)はいつも数本とのこと。
他はすべて日本酒、日本酒比率は実に99%超、凄いのひとことです。
さて、肝心のお店の名前と所在地ですが、ごめんなさい、実は公表する事ができません。
このお店、これまでにも匿名で名前を伏せて数多くの書面や紙面を飾り、また幾多のお酒のマンガのモデルにもなっています。
でも若旦那とお母さんは、いつも来て下さるお客様をまず大切にしたい、そんな信念から店名と所在地を一切明らかにされていません。
しかしまた、それがこのお店が輝いて見える理由のひとつなのだと思います。
ヒントだけ。
12/13の本欄で取り上げた「うまい日本酒はどこにある?」(増田晶文著)からの抜粋です。
「さて、肝心の名前と場所なのだが、割愛させて頂きたい。私がいくら頼んでもこれだけは譲ってくれなかった。住所は東京・目黒区にあるビルの一階、東急田園都市線の渋谷駅に近い駅で下車する、というのが最大の譲歩だという。」