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心引き締まる贈り物

2009.01.04

年末に、敬愛する広島県の蔵元から新酒が一本届きました。
数年前にとあるきっかけでお知り合いになって以来、折あるごとに未熟な私を叱咤激励し続けて下さっている、常に酒造りに精進されている若き社長さんです。

一昨年の秋には、よかったら勉強に来て下さいとお誘いを受け広島県を訪問、その時はお仲間のこれまた若き情熱ある蔵元が集結されてすべてのお蔵を拝見させて頂き、そして最終日にはこの社長のお蔵を半日がかりで見学しながら、酒造りに関するたくさんの事を学ばせて頂きました。

今回お贈り頂いた新酒も、私も頑張っておるんじゃけん、和田も頑張れよ、という無言の励ましと受け取り、そのお気持ちに心引き締まり、そして涙が出る思いでした。

夜、頂いたそのお酒「特別純米八反錦生原酒」を厳かに開封し、まずは一杯・・・旨い!
思わず唸ってしまいました。
鼻腔をくすぐる程良い芳香、そして甘み・酸味・苦味・そして旨味、すべてのバランスがきれいに取れた、味のしっかりと乗ったとろけるような味わい、本当においしいのです。
こういうお酒が造りたいと素直に思いました。
感激のあまり繰り返し杯を空け、気が付いたらあっという間に半分以上を飲み干しておりました。

この感激をご本人にも伝えたいと夜遅いにも関わらず電話、残念ながら繋がりませんでしたが、今のこの気持ちを堰を切ったように留守電に吹き込んでおりました。
今の自分がたくさんの方に支えられている事を改めて実感しながら、これからも頑張ろうと思った次第です。

それでは2009年、今年もよろしくお願い申し上げます。

シャイン・ア・ライト

2008.12.27

仕事の合間を縫って、マーティン・スコセッシ監督「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」を観ました。
観たくて観たくて仕方がなかった1本です。

マーティン・スコセッシ監督といえば、しばらく前に長野市の老舗の映画館で「1970年代のニューシネマ特集」という触れ込みで、一週間だけ、しかも夜1回のみ、突如「タクシードライバー」を上映していて、20年以上も前に何度も繰り返し観たあの頃の思い出に浸りながら、今回もやはり同じ感動に包まれたのでした。
映画館を出る際に、支配人の奥様とおぼしき方が見送って下さったので、「今になってこの作品をスクリーンで観ることができるとは思いませんでした。ありがとうございました」と思わずお礼を述べてしまいました。

閑話休題。
そのマーティン・スコセッシが監督する「シャイン・ア・ライト」、ザ・ローリング・ストーンズのライブを追ったドキュメント映画なのですが、観終わったあとストーンズのメンバーが数段魅力的で、そして百倍カッコよく見えてくる、極めて秀逸な1本でした。
ストーンズの魅力を自分なりに撮り切るには、何万人も入るスタジアムではなく小さなホールが望ましいと、あえて2000人弱のキャパしかないニューヨークのビーコンシアターを会場に選び、十数台のカメラを駆使して、スコセッシ監督はストーンズの魅力を2時間に渡って余す事なく撮り切っています。

冒頭、ライブ開始直前になっても曲目のリストが手元に届かず困惑するスタッフや監督を尻目に、あくまでもマイペースでオープニングを迎えようとするストーンズ。
そしてついにセットリストが監督に届き「1曲目は!?」と叫んだ瞬間に「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」のあのイントロが奏でられるシーン、思わず背筋に電流が走ります。

そしてアンコールの「サティスファクション」が終わった瞬間、観ている我々観客もひとときの祭りから解放され、しかし観終ったあとの方が遥かに、観ている間よりもひときわ深い感動と余韻とに包まれている事に気が付くのです。
昔、淀川長治が、映画雑誌の質問コーナーで「私は映画を見たあとは、何時間もその映画のことばかり考えてしまい他のことが手につかないのですが、どうしたらいいでしょうか?」という質問に、「あなたはその数時間で大切な勉強をしているのです。その数時間こそが大事なのですよ」と答えていた事を思い出します。

ストーンズのライブ映画といえば、約25年前に公開されたハル・アシュビー監督「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」が、あります。
私は当時、東京の丸の内ピカデリーで観たのですが、感激のあまり2回立て続けに観てしまった事を覚えています。
こちらの映画は何万人も収容する野外スタジアムと屋内アリーナでのライブを撮影しているのですが、今回スコセッシ監督はミック・ジャガーから出された「リオデジャネイロのビーチでのライブ」案を蹴ってあえてビーコンシアターに固執したのは、この映画の存在が頭にあったのかもしれません。

ちなみに、ストーンズが20年前に初来日を果たして以来、5回のツアーには毎度足を運んでいますが、やはり最初の「スティール・ホイールズ」ツアーで、場内が暗転してBGMで「コンティネンタル・ドリフト」が鳴り響く中、暗闇を割くように、キース・リチャーズのギターが「スタート・ミー・アップ」を奏でたあの一瞬の興奮は今でも忘れることができません。

今回の映画「シャイン・ア・ライト」は、そんなストーンズの魅力を余すことなく伝え、とことんまで酔わせてくれる傑作です。
メンバー全員が60歳を越えた今なお、これだけパワフルでセクシーなバンドに乾杯!

精米の意味

2008.12.20

前回、酒造好適米について触れたので、その延長で今回は精米について触れたいと思います。

「精米」とは、玄米の表層や、表層の先端にある胚芽に多く含まれる、清酒を製造する上で不必要な成分を取り除く作業です。
具体的にはタンパク質・脂肪・灰分・ビタミン類がそれに当たります。

ではそれぞれの成分が、どのような悪影響を与えるのか説明します。
まずタンパク質。
前回も説明した通り、米中のタンパク質は、麹菌が生成する酵素(酸性プロテアーゼ)によってアミノ酸に分解されます。
アミノ酸は、酵母の栄養分となるとともに(酵母によって清酒の香気成分である「高級アルコール」に変わる)、アミノ酸は清酒の大切な旨味成分にもなります。
しかし、このアミノ酸が多過ぎると、清酒の雑味となってしまったり着色の原因となります。
脂肪もまた然りで、必要以上に存在する事でお酒の香りや味を劣化させます。

続いて灰分ですが、「灰分」とは、有機物を完全に焼いたあとに残る不燃性の無機物のことを指します。
玄米中の灰分としては、主にカリウム・リン・マグネシウムの3種類が挙げられます。
これらの成分は、ビタミン類とともに、麹菌や酵母の増殖には必須の存在ではあるのですが、必要以上に多くなるとそれらの増殖を過剰に促進させてしまい、品温管理等で支障をきたし、やはりもろみの健全な育成を妨げてしまうのです。

ちなみに「精米歩合」とは、玄米の重量に対する、糠(ぬか)を削って残った米の重量の割合です。
米の「大きさ」ではなく「重さ」の比率なのでお間違いのないよう。

酒造好適米

2008.12.13

清酒造りに特に適した米ということで、食糧庁が各都道府県ごとに品種を特定したものが「醸造用玄米」です。
これを酒造業界では「酒造好適米」と呼んでいます。

有名なものでは兵庫県の「山田錦」から始まって、現在約80種以上の品種が選定されています。
長野県の酒造好適米は「美山錦」「白樺錦」「たかね錦」「金紋錦」「ひとごこち」の5品種です。

食糧庁による審査基準は一般のお米に比べて極めて厳格で、各種基準を満たしたものの中から更に「特上」~「3級」まで等級が分けられ、それが価格にも反映してきます。

ちなみにこの「酒造好適米」は高価で収穫量も限られているため、酒造りにはこれ以外の、いわゆる「一般米」も多く使われている事を付記しておきます。
「一般米」だからお酒の出来が劣るという事ではありません。
「酒造好適米」は、より酒造りに適しているという事であって、「一般米」でも造り手の腕でいかようにでも素晴らしい酒は出来上がってきます。

さて、それではその「酒造好適米」の特徴とは何でしょうか?
ひとことで言うと、大粒で、心白が大きく、タンパク質や脂肪が少ない、といった事が挙げられます。

「心白」とは米の中心にある白色不透明の部分の事ですが、この「心白」の部分は、米の主成分であるデンプンの詰まり方が粗く、そして軟らかくなっています。
ですので吸水しやすく、麹菌の菌糸も中に向かって伸びやすい環境にあり、その結果、麹が酵素を生成する力も強くなり、その酵素が「デンプン」を「ブドウ糖」に分解する、いわゆる「糖化」が進みやすくなるのです。

また、なぜタンパク質が少ないほうがいいかと申しますと、米に含まれるタンパク質は、麹菌が生成する酵素によってアミノ酸に分解され、清酒の旨味成分にもなるのですが、このアミノ酸が多すぎると雑味となって酒質を損ねてしまいます。

いずれにしましても、このように厳格な基準を通った「酒造好適米」を、大吟醸酒クラスになると半分以下、更には監評会出品酒クラスになると6割以上削ってしまうのですから、清酒製造とは本当に贅を尽くした、それだけに一粒たりとも無駄に出来ない「魂」の作業と言うことができるでしょう。

アルコール発酵の停止

2008.12.06

親しい方から、アルコール発酵はどのようにして止まるのか、質問がありました。確かに言われてみれば、このことは分かっているようで実はあまり理解されていない事かもしれないと思い、今回はこの質問にお答えします。

今まで何度か触れている通り、「アルコール発酵」とは、微生物である「酵母」が、「糖分(ブドウ糖)」を「アルコール」と「炭酸ガス」に分解することを言います。
仕込みの間、清酒のもろみ中にあるブドウ糖は酵母によってどんどんアルコールに分解され、それに伴ってもろみのアルコール度数も高くなっていきます。(=糖分も比例して減っていき、すなわち日本酒度も上がっていきます。)
そしてアルコール発酵が止まるという事は、言い換えればもろみ中の酵母が無くなる、あるいは死滅する事を意味しています。
ではそれはどのように成されるのでしょうか?

まず酵母は、自身が生成したアルコールによって死滅します。
通常、酵母はアルコール度数が20度まで上がると完全に死滅すると言われております。
出来上がった清酒の原酒は16度~18度ですので、アルコール発酵の途中でほとんどの酵母が死滅すると考えられます。
また、醸造アルコールが添加されるお酒は、それによってアルコール濃度が一気に高くなるので、やはり酵母は一気に死滅します。

ただ、それでもまだ生き残っている酵母はいます。
上槽(お酒を搾ること)によってもまだ残存している酵母、加えて清酒の熟成に不要な不純物(=「滓(おり)」)を取り除くために「滓引き」が行われます。

「滓引き」とは、搾ったばかりのまだ白濁しているお酒を数日間静かに置いて、タンクの底に沈殿した「滓」を取り除く操作を言います。
清酒タンクの下部には、お酒を出し入れする穴が上下2個付いています。
上の口を「上呑(の)み」、下の口を「下呑み」と呼びます。
「滓引き」はその「上呑み」を使って、清澄な上澄みだけを静かに別のタンクに移す操作です。
この事によって、残存酵母もきれいに除去されていきます。
「滓引き」は清酒が健全に熟成するために、欠かすことのできない過程です。

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