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中禅寺湖の宿

2009.07.11

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社員旅行で奥日光へ行って参りました。
そこで泊まった中禅寺湖畔の宿がとても素適でした。

日光中禅寺湖温泉「ホテル四季彩」。
日光国立公園内に建てられているため、高さ制限によって1階・2階のみのシンプルな建物でしたが、それがかえってこの宿の特徴を醸し出していて、客室・ダイニング・浴室等の効果的な空間利用、清潔感溢れる館内、そしてエントランスをくぐった時にまず目の前に広がる明るく開放的なロビーが好印象でした。

この旅館で心に残った点をいくつか書き留めておきます。

まず何よりも「近からず遠からずの距離感」を大切にした接客に心打たれました。
少なくとも、これまでの温泉旅館のサービスとは明らかに一線を画していました。
例えば、通常はチェックインのあと部屋までぴったりと付いてくる仲居さん制度を廃止し、清潔なアロハシャツに身を包んだ男性(!)や女性スタッフが、まさにホテルのポーターのように部屋まで案内してくれ、部屋に入るとそれ以上は介入せずにすぐに部屋をあとにします。
そしてその分、何かリクエストがある時は親身になって相談に乗ってくれたり、廊下でスタッフにすれ違うと明るい挨拶を率先して掛けてくれたり、もちろん従来の旅館の接客が好きな方には異論はあるでしょうが、私にはその「距離感」がとても心地良く感じられました。
またその事により、仲居さんへのチップはどうしようかという、小さいようで実は大きな心配をしなくていもいいというありがたさが身に染みました。
ちなみに支配人と話す機会があったのでその事を伝えると、まさにその「近からず遠からずの、距離感を大切にしたサービス」を目指しておりますとの答えが帰って参りました。

食事の会場も素適でした。
我々は5名だったので宴会場へ通され、畳に椅子席という、今ちらほら見受けられる新しい形が料理ともども大変快適だったのですが、それ以上に感心したのが少人数用のダイニングでした。
温泉旅館というと、少人数での食事は、部屋出しの場合以外はともすれば肩身の狭い思いをする事が応々にしてありますが、こちらのダイニングはシティホテルのレストランを彷彿させる洋風のモダンな空間が用意されていて、ぜひこちらでも食事をしてみたいと思ったほどでした。

あと、さり気ない事ですが、冷蔵庫が空っぽだったのも嬉しい配慮でした。
ホテルならばいざ知らず、温泉旅館でこのような配慮は、飲み物等はどうぞご自由に持ち込んでお冷やし下さいという無言のメッセージを思わせて、とてもありがたく感じました。
その姿勢にお礼の意味も込めて、自販機で多少高めのビールもたくさん買いましたし、食事の際は地元栃木の地酒をばんばん頼みました。
急がば回れの精神で、結果的には利益に繋がっていると思います。

そして肝心の温泉も本当に素晴らしかったです。
乳白色の湯はずっと浸かっていても飽きる事なく、露天風呂では奥日光の自然を眺めながら、心身ともにゆっりとくつろがせて頂きました。

また、開放的なロビーでのフリードリンクもありがたかったです。
ただの飲み放題ではなく、おいしいミネラルウォーターやコーヒー、器もNORITAKE 等のコーヒーカップや部屋に持ち帰る方の紙コップの常備等々、しっかりと目が行き届いていて清潔感にも溢れていました。
ちなみに私は翌朝ひと風呂浴びたあと、このロビーの片隅の洒落たデスクセットに腰掛けて、コーヒーを啜りながらゆっくり読書に勤しむという優雅な時間を楽しませてもらいました。

ぜひ再訪したい一軒ですし、また再訪した際は、そうした客の思いをしっかりと汲み取ってくれる宿だと感じ入ったひとときでした。

晩酌の楽しみ

2009.07.03

自宅で晩酌する時は、必ず他の蔵元のお酒を、しかもできるだけ2本以上並べて飲むようにしています。
多い時には5本以上のお酒が卓上を飾ります。
いろいろな蔵元のお酒を味わうことは大変勉強になりますし、またこれは私の持論ですが、利き酒の能力を高める一番手っ取り早い方法は、何本かのお酒を同時に飲んで比較して、心の中でも構わないので自分の言葉で表現してみる事だと思っています。
まあそれはただ単に飲兵衛の言い訳だと周りからは突っ込まれそうですが。
でも、日本中の数限りない銘柄のお酒や、あるいは同じ銘柄の中でも違ったスペックのお酒を飲んでいると、いつも新しい発見や感動があって、おいしさとあいまって、それは本当に楽しいひとときです。

ここのところ、同一銘柄の純米吟醸で、精米歩合が50%と60%のものを一緒に買ってきて飲み比べるという事を何度か繰り返しています。
ここ数回を例に挙げると「大吉野」(長野県)、「獺祭(だっさい)」(山口県)、「大信州」(長野県)、「貴(たか)」(山口県)等です。
長野県と山口県に偏っているのは、これはたまたまです。

こうやって、例えば「純米吟醸」といった同じクラスで精米歩合だけが違う同一銘柄を飲み比べてみると、もちろん使用米や酵母が異なる場合もありますが、「精米歩合」の違いが味わいにどのように反映されているかがよく分かります。
特に「精米歩合50%」と「精米歩合60%」というのは、その違いが微妙なだけに、その「10%」の差が生み出す味わいの差が、比較する事によって明確に体感できます。
言い換えると、お米を削る事によって生まれる、日本酒の深みがはっきりと理解できるのです。

もうひとつ、この飲み方によって、どのお酒にも共通するその蔵元独自の味わいが、ある程度分かってきます。
先日も、いつもお世話になっている酒販店さんにお伺いした際、勉強のために試飲させて頂いたお酒がたまたましばらく前に晩酌で飲んでいたお酒で、いつもの味わいとは趣きを異にしているなあと思ったら、やはりそのお酒は新規需要を呼び起こすための、あえて違う方向性を目指した新銘柄である事を教えて頂きました。
こんな事もお酒を飲む上でのさり気ない楽しみのひとつです。

渋谷の隠れ家

2009.06.27

いつも暇さえあれば、ジャンルを問わず飲み歩く毎日。
選ぶお店は、どちらかというと「広く浅く」というよりは「深くても狭く」のタイプで、気に入ったお店に何度も通い詰めるのが常です。
東京へ行った時、そんな一軒としてつい足が向いてしまうのが「Chinois シノワ渋谷店」、私が大好きなワインバーです。
時には会食に、時には仕事で疲れた体を癒しつつ深夜に、その時のシチュエーションに合わせて使える、ワインも料理もそして空間も充実した大人のお店です。

渋谷ハチ公口から東急本店へ向かう途中、とあるビルの最上階に「シノワ渋谷店」は特に目立つ看板もなく、さり気なくお店を構えています。
エレベーターに乗って8階に着くとそこはいきなりお店のエントランス、すぐにスタッフが出迎えてくれて、そこからが「シノワ」ワールドの始まりです。
一歩進むと、心地よい賑わいと共に、店内の由来でもある「シノワズリー」模様に囲まれた店内が目に入ってきます。

客席は、中央にL字型のカウンター、そしてその隣に広々としたテーブル席、さらにはカウンター脇の階段を上がると中2階にもテーブル席がある、いわゆるメゾネット構造になっていて、渋谷の片隅にこのような空間がある事に驚かされます。
私のお気に入りはカウンター席、ここでいつも表向きはシャキっと、でも心では気持ちよく酔いどれています。

思い起こせば「シノワ」との馴れ初めは、「シノワ」1号店の「銀座店」オープンの時に頂いたDMでした。
初めて訪問した時からその落ち着いた雰囲気の虜になり、何度か足を運びましたが、決して広くないキャパシティもあいまって、しばらくするといつ行っても満席、それで次第に足が遠のいてしまいました。

そんな時届いたのが、2号店となる「渋谷店」オープンのお知らせ。
銀座店とはまた打って変わって広々とした開放的な雰囲気、加えてオーナーの後藤さんがほとんどはこちらの渋谷店にいらっしゃる事もあって、いつの間にか足繁く通い詰めておりました。

ちなみにオーナーの後藤さんは私と同い年、豊富な知識と柔らかな物腰でファンも多く、いつも後藤さんとお話しすると、よし私も頑張るぞ!と、改めてたくさんの元気を頂いて帰るのです。

さて、肝心のワインや料理はと申しますと、まず嬉しいのが、その日ごとに抜栓された数多くのワインがグラスで飲めること。
最初は軽い白から始めて、最後はフルボディの赤、あるいはデザートワインに至るまで、すべてグラスで通す事も可能です。
しかも自分が飲みたいタイプのグラスワインを悩んでいると、スタッフから「お好きなタイプをおっしゃって頂ければ開けますので遠慮なくおっしゃって下さいね」という、嬉しいひと言が掛けられます。

ボトルに至っては、メインのフランスからこのお店の目玉でもあるカリフォルニアやオーストラリア、ニュージーランドまで網羅して、リーズナブルで豊富なワインがずらりと勢揃いしています。
私がボトルを頼む時は、このお店で大好きになったシャンパン「Deutzドゥーツ」から始める事が多い今日この頃。
でも「今日は喉が渇いたからまずビール」から始めるのもOK、そんな肩肘張らないところもこのお店の魅力です。

お料理は、「その日のお勧め」を含む魅力溢れるひと皿がこれまたずらりと並んでいて、「メニュー選び」の楽しさを満喫できること請け合いです。
あるいは前菜、主菜、デザートからそれぞれ選ぶプリフィクスもあります。
もし余力があれば、「シノワ」名物「フォワグラ丼」をぜひ召し上がってみて下さい。
もち米の上にフレッシュのフォワグラが乗った一品は、その美味しさと共に、和洋の食材のマリアージュに既成概念が覆されます。

ちなみに、アフターディナーでその日の締めの一杯だけ、なんて利用も快く受け入れて下さいます。
私なんかはむしろそちらの方が多いです。
日付が変わる頃に訪れて、グランヴァンの赤、あるいはヴィンテージポートを一杯、その日の余韻を噛み締めながら味わって「シノワ」の夜が更けていきます。

優秀なスタッフに門戸を広げてしっかりと独立させていくのもこのお店と後藤さんの素晴らしさ。
余談ですが、しばらく前にオープンした3号店の銀座「ビストロ・ヌガ」もとてもとても素敵な一店で、ただ唯一の難は、こちらも既になかなか予約がとれない事です。

最新情報

2009.06.20

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当社のお酒の最新情報です。

まず「登水(とすい)」ですが、「純米酒」「吟醸酒」とも春限定で発売した「生酒」が完売しました。
初めての試みでしたが、おかげさまでご好評を頂き、ほっと胸を撫で下ろしています。
これからはしっかり「火入れ」をした通常商品に切り替わります。
「生酒」とはひと味違った、落ち着いた酒質の「登水」をお楽しみ下さい。
柑橘系のフルーティな香りと爽快な味わいの「吟醸酒」、ふっくら柔らかく旨みがたっぷりと乗った「純米酒」、どちらも個性的なお酒です。
ぜひ飲み比べてみて下さい。

もうひとつ、春先に上田市のフリーペーパー「うえだNavi」さんとタイアップして発売した「和田龍吟醸生貯蔵酒・桜ラベル」(4/4の当ブログ参照)、予想以上に好評で、4月・5月限定発売の予定を延長して発売中です。
我が上田市は真田一族で有名な城下町。
ここのところ立て続けに「歴女」の皆様の訪問地としてもテレビ等で紹介され、そんな事もあってか思わぬヒット商品となっています。
「桜ラベル」もとい「戦国ラベル」の当清酒は、さらりと軽やかでフルーティ、女性や日本酒ビギナーの方でもついもう一杯進んでしまうお酒です。
もうしばらく発売しています。
(写真:お酒の左はケースに同封されている「うえだNavi」メンバーズカード)

滋賀の酒蔵

2009.06.13

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去る6月9日~10日、長野県酒造組合青年部(通称「若葉会」)の研修旅行で、今年は滋賀県を回って来ました。

早朝出発し、まず蔵元見学で伺ったのが、琵琶湖の西岸に位置する高島市の上原酒造株式会社様。
ここでは専務の上原さんがお相手して下さいました。

見た目は小さな酒蔵ですが、酒造りに対するポリシーは太く大きく、大変感動させられました。
まずここの蔵元は、今の時代に逆行し、大半が山廃仕込み。
即ち、日本酒醸造では雑菌駆除のために欠かせない乳酸を「添加」するのではなく、天然の乳酸菌を取り込んで乳酸を生成させる、昔ながらのの手の込んだ製法を用いています。
更に驚いたのが、酵母無添加。
山廃仕込みは、今の時代、酵母そのものは添加するケースが多いのですが、こちらは家付き酵母を自然に増殖させる、これまた大変時間と労力とが必要な古来からの製法を取られていました。

続いて驚かされたのが槽場(ふなば)、つまりお酒を上槽する部屋です。
目に飛び込んできたのは、長さ5mもあろかという巨大な丸太と、見るからに使い込んである昔ながらの木の槽(ふね)。
初めて見ましたが、要はその木槽(きぶね)の中にもろみを入れた袋をびっしりと重ね、その上から天秤の原理で丸太で圧力を掛け、自然の力でお酒を搾り出す方法なのだそうです。
その「木槽天秤搾り」、通常の圧搾機より搾れるお酒の量は少ない分、出来上がったお酒は雑味のないきれいな味わいとなるそうです。

そしてもうひとつ、熟成に対する考え方も確固たるものでした。
山廃仕込みのお酒は一般的に味わいは太く旨味もしっかりと乗っておりますが、こちらのお蔵ではそんな個性をさらにしっかり主張すべく、ほとんどのお酒を1年以上しっかりと熟成されていました。
この日はすべてのお酒を利かせて頂いたのですが、確かに20BY→19BY→18BYと貯蔵年数を経るほど、それに比例してお酒の旨味や深みも増し、新酒とは明らかに一線を画す味わいでした。
ちなみに商品の一番のボリュームゾーンは3年熟成酒とお伺いして、これまた驚きの連続でした。

続いて今度はぐるりと琵琶湖を回りこんで、もう一件草津市の太田酒造様(メイン銘柄「道灌」)を見学させて頂き、その後向かったのは大津プリンスホテル。
ここでは滋賀県の蔵元で組織する「滋賀県技術研究会」の皆様がちょうどこの日に研究会を開催されていて、我々が滋賀まで足を運ぶということで、急遽合同の「長野県・滋賀県酒造交流会」をセッティングして下さったのでした。

全員が揃ったところでまずは両県の需要開発の報告を交互に行い、そのあとすぐに利き酒会。
滋賀県21蔵、長野県16蔵、この日集まった全蔵元が出し合った純米吟醸酒を片っ端からじっくりと利かせて頂きました。
舌の官能を鍛えるには、1本でも多くのお酒を目的意識を持って同時に利き較べる事が何よりの方法だと個人的には思っておりますので、これは絶好の機会と時間いっぱい勉強せさて頂きました。
そしてそのあとは懇親会。
私自身は滋賀県の蔵元さんとこのようにお話しできる機会は初めてだったので、好奇心丸出しでいろいろと話に花を咲かせて頂きました。

それとお料理に琵琶湖名物の「鮒(ふな)寿司」が出てきて、これは主催者がわざわざ我々のために用意して下さったそうで、好みは分かれるでしょうが、発酵食品大好きな私としては感涙に咽ぶひと品でした。
もったいなくて、発酵が進みつつある鮒の身を箸の先にちょこっと付けては、それを舐めながらお酒をくいくい。
これだけで杯が何杯も進んでしまいました。
最後は皮とそこに付いた身に至るまで食べ尽くそうと取っておいたら、ちょっと目を離している間にホテルのスタッフが皿を持っていってしまいしばし呆然。
顔は笑いながら心は泣いた一瞬でした。
私の鮒寿司を返せ!

写真上:上原酒造様/写真下:太田酒造様

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