2010.07.06
週末を利用して、毎年恒例の社員旅行へ行って参りました。
社員旅行とは言っても、ほんの数名の勝手気ままな小旅行です。
今年の行き先は能登半島の和倉温泉周辺をチョイス。
今回はその時宿泊した旅館での出来事です。
ちなみにこの旅館はネットで調べて選びました。
そこそこの予算で評判の良い旅館を片っ端から検索し、名前の挙がった数軒のうちの1軒をその場でネット予約致しました。
もちろんこれはある意味賭けで、この選択が吉と出るか凶と出るか、わくわくしながらその日を待ちました。
さて当日、小雨がそぼ降る七尾市内を観光した我々は、午後4時頃その旅館に到着しました。
正面玄関に車を付けると、早速和服姿の係の女性が駆け寄ってきて、気持ちの良い挨拶を頂きます。
車を預けて中に入り、まずはチェックイン。
名前を告げると、担当の女性は前日に予約確認の電話を頂いた方だったのか、あらっ!という笑顔を頂きながら心地良い手続きが進みました。
旅館やホテルに宿泊する際、チェックインは最初に心躍るひとときです。
チェックインの時の印象の良し悪しによって、その旅館やホテルへの期待度も大いに変わって参ります。
そんな意味からも、今回の宿泊はスムーズかつ快適な流れの中で始まりました。
ささやかな事件が起こったのはその次でした。
受付のその女性と、もうひとりフロントの責任者らしい男性のふたりが、フロア奥の広々としたラウンジを示しながら「あちらでお茶をお出ししますね。その時に(リザベーションカードに)サインを頂きます」と言ったのを受けて、我々はラウンジ内の窓側のテーブル席に腰を落ち着けて、能登の海岸風景をしばし楽しんでいました。
余談ですが、山国に住む信州人の海に対する思い入れは、それはそれはハンパではありません。
乗り物に乗っていて海が見えた瞬間に「海だっ!!」と叫ぶのは当たり前。
電車に乗った信州人が、海が見えると全員が海側の座席に移動して電車が傾くという話もあながち冗談には聞こえないほど、長野県民にとって海は憧れなのです。
閑話休題。
さて、そんな訳で、我々一行もしばらくは海の眺めに見とれていたのですが、それにしてもお茶が出るどころか旅館のスタッフが来る気配すら一向にありません。
そうこうするうちにも、先着のお客さんは次々に客室係に案内されて部屋へ移動していくのを見て、ついにラウンジ内で立っている和服の女性に声を掛けました。
「待つように言われているのですがずっと待たされっ放しで、一体どうなっているのですか?」
怪訝な顔をしたその女性から返ってきた答えは「お待ち頂くようにという事でしたら、そのまま今しばらくお待ちください」というものでした。
それでも待てど暮らせど誰も来る気配がないのにシビレを切らした私は、フロントに折り返し、先ほど対応してくれたフロントのおふたりにちょっと語気を荒げて「ずっと待たされているのですが、どうなっているのでしょう?」と訪ねました。
その瞬間、おふたりの顔色がさっと変わり、「申し訳ございません!」というお詫びの言葉と共にカウンターから飛び出して来られました。
どうやら手違いで我々には引き継ぎが出来ていなかったようです。
素直に非を詫び再三再四頭を下げるおふたりの姿にすぐにわだかまりも溶け、私はひとまずテーブルに戻りました。
そんな私を追うように、係のふたりはテーブルまで飛んできて、再度のお詫びを繰り返します。
そしてこの短時間でいつの間に用意したのか、「よろしかったらお使いください」と、そのラウンジの無料のコーヒー券が人数分入った包みを手渡してくれたのです。
その言葉と態度には、フロントマンとしての気持ちと誠意がしっかりとこもっていました。
私は別にお詫びの品物が欲しかった訳ではもちろんありません。
ただ、クレームが付いた瞬間に何が起きたのかを察し、そして瞬時にこのような精一杯の対応を示してくれたのが、この旅館の姿勢そのものに触れたような気がして嬉しかったのです。
そのあと部屋まで案内してくれたのは、先ほどラウンジ内で曖昧な返答をした女性でした。
しかし彼女も、何が起きていたのかが分からなかった事を素直に認め、部屋に入ってから丁重に詫びの言葉を重ねました。
その事で我々の気持ちもより一層和み、彼女といろいろな会話が弾みました。
ところで、この旅館の食事のシステムがひと味違っていて、私はとても気に入りました。
そのシステムとは、食事処の営業時間内であれば、宿泊客は何時に足を運んでも構わないというもの。
通常は部屋に通されるのと同時に食事の時間を決めさせられ、その前後の時間まで拘束されてしまうのが常なのですが、こちらではいつ食事に行ってもいいというたったそれだけの事で、それ以外の時間も気持ちに余裕を持って過ごす事ができました。
加えて、日頃夕食の時間がかなり遅い私にとっては、多少遅く食事処に行っても許される、これは大変ありがたいシステムでした。
ちなみに、食事中に何気なく周りを見渡すと、先ほど部屋まで案内してくれた女性がせっせと給仕をしていて、目が会うと気持ちのよい笑顔と挨拶とを我々に向けてくれました。
その笑顔は決して義務感からでなく、真心のこもった暖かなものでした。
たったこれだけの事で、食事の時間がさらに楽しいひとときとなりました。
そして翌朝のチェックアウト。
応対をして下さったのは昨日と変わらぬおふたりでした。
ここで今一度おふたりから丁重なお詫びがありました。
そこで私は「温泉をはじめとして館内の施設といった「ハード」はもちろんですが、今回は皆様のサービス精神という「ソフト」を堪能させて頂きました」と返答致しました。
確かに最初は些細なミスから始まった今回の滞在でしたが、そこからの捲土重来を期したスタッフの皆様の態度と姿勢が、逆に大きな感動を感じさせて頂く結果となった、私も大いに学ばせて頂いた価値ある1泊でした。
更に驚いたのは、チェックアウトを終え、車に向かう私たちを見送って下さった(たぶん)女将からも「今回は大変な失礼をしてしまいまして本当に申し訳ございませんでした」という言葉を頂いたこと。
よく「ほう・れん・そう」、即ち「報告・連絡・相談」という、企業として欠かす事のできない三要素が挙げられますが、この点においてもこの旅館はそれが徹底されていると、改めて感心した次第です。
そんな女将の言葉に、私も「次にご縁があったその時はぜひまた宜しくお願い致します」と感謝の言葉を述べて旅館をあとにしたのでした。
この旅館は、和倉温泉「ゆけむりの宿 美湾荘」といいます。