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追悼山田辰夫

2009.08.02

俳優の山田辰夫が亡くなりました。
53歳という若さでした。
数々の映画やドラマの名脇役として知られ、最近では映画「おくりびと」で、妻を亡くし訪れた納棺師に最初は反感を抱きながらも、きれいに死化粧を施された妻を見てその美しさに涙しながら最後は深々と感謝の思いを述べる、物語のキーとも言える中年の男性役を見事に演じていました。

しかし、私にとっての山田辰夫といえば、何といっても彼のデビュー作「狂い咲きサンダーロード」。
私が高校生の頃ですから今から約30年も前、「高校大パニック」で鮮烈なデビューを果たした石井聰亙監督の次回作として公開された本作を観て、まさしく吹っ飛びました。
全編に渡ってスクリーンから溢れ出る熱気とエネルギー、その中心を担っていたのが暴走族の特攻隊長・仁(ジン)を演じる山田辰夫でした。
街中の暴走族に反旗を翻しひとり抗争を繰り広げていく彼のその存在感に、当時の私はまさしく釘付けになりました。

その頃の邦画界は東宝・東映・松竹・にっかつの大手4社のすきまを縫って、いわゆるATG系をはじめとした低予算ながら冒険心に溢れた良質な作品が次々と生み出されていた頃で、その中でもこの「狂い咲きサンダーロード」は私の中で異彩を放っていました。
山田辰夫のちょっと鼻にかかったあの独特な声が耳から離れず、ロードショーが終わったあとも名画座のリバイバルや、さらにはそのあとようやく出始めたレンタルビデオを求めては繰り返し観たものでした。
公開当時のパンフレットが欲しくて堪らなくて、ついに東京神保町の映画専門の古書店で発見した時は、ただただ感動ものでした。

余談ですが、石井聰亙監督は「狂い咲きサンダーロード」の流れをそのまま汲んで、「爆裂都市-BURST CITY-」を発表します。
これまた圧倒的な熱気と異様な興奮とに包まれた「凄まじい」という表現そのままの映画で、当時映画評論家からは散々に叩かれましたが、「これは暴動の映画ではない、映画の暴動だ」のキャッチフレーズそのままに、私はまたまたスクリーンに釘付けになったのでした。
陣内孝則率いるロッカーズ、大江慎也率いるルースターズ、遠藤ミチロウ率いるスターリン、泉谷しげる、町井町蔵(現在は作家の町井康)、戸井十月、漫画家の平口広美、コント赤信号など、異色といえばあまりにも異色な出演者たちのもと、近未来の架空の都市を舞台に起こった暴動の映画を観るために何度も映画館に足を運んでは心を鷲掴みにされたあの頃の思いは今でも忘れません。

当時たぶんカルト的な人気を誇った石井聰亙監督とこれらの作品群、その流れの始まりであり中心の一翼を担ったのがまさしく山田辰夫でした。
なかなか発売されなかった「狂い咲きサンダーロード」のDVDが発売されているのを立ち寄ったタワーレコードで偶然発見し、狂喜乱舞して買い求めたのは、奇しくも山田辰夫が亡くなる数日前でした。

中禅寺湖の宿

2009.07.11

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社員旅行で奥日光へ行って参りました。
そこで泊まった中禅寺湖畔の宿がとても素適でした。

日光中禅寺湖温泉「ホテル四季彩」。
日光国立公園内に建てられているため、高さ制限によって1階・2階のみのシンプルな建物でしたが、それがかえってこの宿の特徴を醸し出していて、客室・ダイニング・浴室等の効果的な空間利用、清潔感溢れる館内、そしてエントランスをくぐった時にまず目の前に広がる明るく開放的なロビーが好印象でした。

この旅館で心に残った点をいくつか書き留めておきます。

まず何よりも「近からず遠からずの距離感」を大切にした接客に心打たれました。
少なくとも、これまでの温泉旅館のサービスとは明らかに一線を画していました。
例えば、通常はチェックインのあと部屋までぴったりと付いてくる仲居さん制度を廃止し、清潔なアロハシャツに身を包んだ男性(!)や女性スタッフが、まさにホテルのポーターのように部屋まで案内してくれ、部屋に入るとそれ以上は介入せずにすぐに部屋をあとにします。
そしてその分、何かリクエストがある時は親身になって相談に乗ってくれたり、廊下でスタッフにすれ違うと明るい挨拶を率先して掛けてくれたり、もちろん従来の旅館の接客が好きな方には異論はあるでしょうが、私にはその「距離感」がとても心地良く感じられました。
またその事により、仲居さんへのチップはどうしようかという、小さいようで実は大きな心配をしなくていもいいというありがたさが身に染みました。
ちなみに支配人と話す機会があったのでその事を伝えると、まさにその「近からず遠からずの、距離感を大切にしたサービス」を目指しておりますとの答えが帰って参りました。

食事の会場も素適でした。
我々は5名だったので宴会場へ通され、畳に椅子席という、今ちらほら見受けられる新しい形が料理ともども大変快適だったのですが、それ以上に感心したのが少人数用のダイニングでした。
温泉旅館というと、少人数での食事は、部屋出しの場合以外はともすれば肩身の狭い思いをする事が応々にしてありますが、こちらのダイニングはシティホテルのレストランを彷彿させる洋風のモダンな空間が用意されていて、ぜひこちらでも食事をしてみたいと思ったほどでした。

あと、さり気ない事ですが、冷蔵庫が空っぽだったのも嬉しい配慮でした。
ホテルならばいざ知らず、温泉旅館でこのような配慮は、飲み物等はどうぞご自由に持ち込んでお冷やし下さいという無言のメッセージを思わせて、とてもありがたく感じました。
その姿勢にお礼の意味も込めて、自販機で多少高めのビールもたくさん買いましたし、食事の際は地元栃木の地酒をばんばん頼みました。
急がば回れの精神で、結果的には利益に繋がっていると思います。

そして肝心の温泉も本当に素晴らしかったです。
乳白色の湯はずっと浸かっていても飽きる事なく、露天風呂では奥日光の自然を眺めながら、心身ともにゆっりとくつろがせて頂きました。

また、開放的なロビーでのフリードリンクもありがたかったです。
ただの飲み放題ではなく、おいしいミネラルウォーターやコーヒー、器もNORITAKE 等のコーヒーカップや部屋に持ち帰る方の紙コップの常備等々、しっかりと目が行き届いていて清潔感にも溢れていました。
ちなみに私は翌朝ひと風呂浴びたあと、このロビーの片隅の洒落たデスクセットに腰掛けて、コーヒーを啜りながらゆっくり読書に勤しむという優雅な時間を楽しませてもらいました。

ぜひ再訪したい一軒ですし、また再訪した際は、そうした客の思いをしっかりと汲み取ってくれる宿だと感じ入ったひとときでした。

憧れのグランメゾン

2009.05.23

先日出張で東京へ行った折、日頃から公私ともども大変お世話になっている方からランチのお誘いを頂きました。
喜び勇んで、待ち合わせ場所のJR有楽町駅で落ち合いそこから歩いてほんの数分、連れていって頂いた先が・・・思いも寄らぬ感動の一軒でした。

有楽町「アピシウス」。
フランス料理界を代表する老舗のグランメゾンです。
同じ銀座・有楽町地区では「レカン」「ロオジェ」などと共にいつか一度は行きたいと思っていた憧れのお店だっただけに、まさかその日が今日訪れようとはと、地下へと続くお店の入り口に立った時は夢見心地でした。

階段を降りてエントランスから案内されるがまま、曲がりくねった長い回廊をゆっくり歩いた先に、華やかなメインダイニングが登場します。
途中の廊下やバーラウンジ、そしてメインダイニングに飾られた絵画や彫刻を眺めながら、これが噂に聞くユトリロ、シャガール、ワイエス、ロダン等々の本物かと、おのぼりさん状態で思わず回りをキョロキョロしてしまいました。

料理は今日はホストの方に完全にお任せ。
メニューは以下の通りです。

・オーベルニュ地方 フルム・ダンベールチーズのムースリーヌ 初夏のフルーツ添え
・海の幸のソーセージ仕立て アネットの香り
・茹でた北海道産ホワイトアスパラガス オランデーズソース
・和牛頬肉のプレゼ ブラックオリーブ風味 自家製のヌイユ添え
・デゼールとコーヒー

ちなみにホワイトアスパラガスはアラカルトメニューからの追加でした。
ここに、ワインを軽く飲みましょうということで選んで頂いたのが「ピュリニーモンラッシェ・プルミエ・クリュ・ピュセル 2002 ドメーヌ・ルフレーヴ」。
まさか今日ルフレーヴを飲めるとは思わなかったので感激に輪が掛かりました。

総じての感想ですが、やはり素材とソースとのマリアージュを大切にしたクラシックフレンチは素晴らしいと改めて実感致しました。
最近はどちらかといえば、素材重視のシンプルな調理法でソースも軽めの、いわゆる現代風フレンチが主流となっています。
しかし好みから言えば、クラシカルなソース(あるいはそれを発展させたソース)が、やはりしっかりと調理された食材と絡み合って真価を発揮する重厚なひと皿が私は好きです。
語弊を承知で言えば、フレンチなのかイタリアンなのか区別がつかなくなっている皿も多くなっている昨今だからこそ、クラシックなフランス料理とその進化にはなおさら新しい発見と魅力を感じます。

それらにしても店内が満席なのには驚きました。
不景気とはいっても魅力あるお店にはちゃんと人は集まる、不景気を言い訳にしてはいけない、そんな事を肝に銘じました。

ふたりでおいしい料理と楽しい会話とで過ごしたあっと言う間の2時間半、最後のプティフール(小菓子)に至るまでグランメゾンの魅力を堪能致しました。
食事を終えて地上に戻ると、燦々とした日差しが体に降り注ぎ、現実に戻った頭の中で、先程の午餐のひとときが夢のような時間として脳裏に焼きついたのでした。

軽井沢のお気に入り

2009.04.25

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いよいよゴールデンウィークに突入します。
私が住む上田市から車で45分ほどの軽井沢の街も、全国からの観光客で今年もまた大盛況を呈する事と思います。
そんな中、私が大のお気に入りのお店をご紹介します。

軽井沢というと、最近はまず軽井沢駅の裏手に位置する広大なプリンスのアウトレットを思い浮かべる方が多いかと思います。
しかし今回ご紹介するのは、昔ながらの軽井沢の面影を残す旧軽井沢の街の中の1軒です。

軽井沢駅に降り立ち、駅前の大通りを出て直進、道々に広がるお店を楽しみながら歩くこと20分ほどで旧軽井沢のロータリーにぶち当たります。
そこから始まる、連休ともなると立錐の余地もなくなるこの旧軽井沢の町並みの、その一番奥に「茜屋珈琲店」はあります。

「茜屋珈琲店」と大きく書かれた趣のある看板を目印に、ずっしりとしたドアを開けて中に入ると、まず目に入るのは奥行きのある一枚板の長いカウンター。
そのカウンターのうしろには、6人は掛けられる大きなテーブル席がいくつもあります。
どこに座ろうか考える間もなく、店主の大谷さんやスタッフの皆さんが「いらっしゃいませ」と声を掛けてくれて、暖かな笑顔とともに、人数や客層に合わせて座る場所の相談に乗ってくれます。

このお店のメニューはメインのコーヒーと紅茶、そしてアイスココアとオレンジジュースとグレープジュースと2種類のケーキのみ、生粋の喫茶店です。
そしてカウンターの奥を見ると、棚に飾られた数えきれないほどのブランド物のティーカップ。
ウエッジウッド、ジノリ、ロイヤルコペンハーゲン・・・それは壮観な眺めです。
オーダーを出すと店主の大谷さんはそのティーカップ&ソーサーの中からひとつを選び、そこにじっくりと時間を掛け丹精込めてコーヒーを注いでくれます。
そして出されたコーヒーをすすりながら過ごすしばしの時間が、心安らぐ至福のひとときです。

ちなみに私は先日、日曜の午後にたまたま数時間だけ時間が空き、煮詰まった頭をどこかでリフレッシュしようとしばし考えて、気が付いたらただ「茜屋」さんのコーヒーを飲むためだけに、軽井沢に向けて車を走らせておりました。
軽井沢へ向かう途中の春の信州の景色、茜屋さんでの美味しいコーヒーと居心地よい空間、そして軽井沢の街の空気、すべてがあいまって、心洗われる素敵な時間を過ごすことができました。

そして帰り道には、旧軽通り中ほどに向かい合って位置する「浅野屋」か「フランスベーカリー」でパンを山ほど買い、時間があればロータリー横の「川上庵」か「酢重本店」で食事をするのが私の定番です。

また、軽井沢駅から旧軽井沢へ向かう途中の大通りには、当HPでもリンクを貼らせて頂いている「JAP工房」(当ブログ2008/6/7掲載)の軽井沢支店に当たる「SIN/GUILD UNIT CLUB」があり、ここにも必ず顔を出して、新作のシルバーや洋服を眺めながら、スタッフの皆さんとの楽しい会話に花を咲かせています。

神田将リサイタル

2009.04.13

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日頃から敬愛する日本のエレクトーン演奏の第一人者、神田将(ゆき)さんの毎年恒例のリサイタルに、今年も行って参りました。

エレクトーンと言われて、大抵の方は例えば結婚式などで弾かれるあのモコモコとした音と姿とを想像されると思いますが、現代のエレクトーンは全くの別物。
たった一台のエレクトーンで、例えば交響曲のフルオーケストラのすべての楽器の一音一音まで、繊細かつダイナミックに表現し得る最先端の楽器なのです。
「百聞は一見にしかず」、初めてその音色を聴いた方は、たった一台の楽器からどうしてこのような何十何百もの音が華麗にそして繊細に奏でられるのか、その圧倒的な表現力にきっと驚愕されると思います。

かくいう私も、数年前初めてコンサートに足を運んだ時の、あの衝撃は忘れません。
満席に埋まった東京のホールで、1曲目の「オペラ座の怪人」の最初の数小節が鳴り響いた瞬間、エレクトーンという楽器の凄さに、しばし呆然としてしまったものでした。

さて、そんな神田将さんのリサイタルが、今年も東京御茶ノ水のカザルスホールで開かれました。
今年で4回目になるこの定期コンサート、毎年神田さんが手を変え品を変え、様々なジャンルの音楽を選び抜いて演奏するその姿を楽しみに、今年もホールはたくさんのファンの方々に包まれました。

この日演奏された曲目は以下の通りです。
・交響曲「禿山の一夜」ムソルグスキー
・アヴェ・マリア シューベルト
・オペラ座の怪人 アンドリュー・ロイド・ウェバー
・カンタータ147番より「主よ人の望みよ喜びよ」
・歌劇「運命の力」序曲 ヴェルディ
・ブエノスアイレスの夜(タンゴの名曲)
・さくら(日本古謡)
・リバーダンス(タップダンス劇より)
・「レクイエム」より"リベラ・メ" フォーレ
・組曲「仮面舞踏会」より"ワルツ" ハチャトゥリアン
・バレエ音楽「三角帽子」より"終幕の踊り" ファリャ
アンコール1
・「篤姫」のテーマ
アンコール2
・とりのうた

ね、何だか楽しそうでしょう?
この日も神田さんの軽快なスピーチともに、あっという間の2時間が過ぎていきました。

個人的に印象深かったのはフォーレ「レクイエム」の第6曲「リベラ・メ」。
以前から大好きなフォーレの「レクイエム」、そのハイライトを飾るバリトンと合唱とが絡み合うこの名曲を神田さんがどう料理して演奏するのか、プログラムを見た瞬間から心躍らせておりました。
そして冒頭から荘厳さと厚みとに満ちたその「リベラ・メ」は、もちろん歌は入っていないのにも関わらず、フォーレの思いを余す事なく伝えんとする神田さんの思いと共に、聴く者の胸に熱く伝わって参りました。

まだまだ耳にした方が少ないであろう現代エレクトーンの世界、神田将さんは演奏で全国を回っています。
もし機会があればぜひ一度触れて頂くことをお薦め致します。
ちなみに長野県では、9月27日(日)に軽井沢大賀ホールにて開催されます。

http://www.yksonic.com/index.html
 神田将ホームページ

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