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手書きのぬくもり

2011.05.04

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3月に渋谷区のCTホテルに泊まった時の、ささやかですが嬉しい出来事です。

このホテルもまた私がお気に入りの一軒で、特にフロントレセプションチーフのTさんとお知り合いになってからは、その暖かなお心遣いも含めて、利用する楽しみが倍増しています。

さて、この日は東北大地震の直後ということもあって出張そのものを取り止めようかと悩んだのですが、こういう時こそ元気を出して出歩かねばと心にカツを入れ上京し、夕方ホテルにチェックインしました。

いつもそうですが、チェックインの数分間というのは、ホテルを利用するに当たって最も楽しみで、そして心躍るひとときです(それなのにひどい対応に当たって、がっかりしてしまうことが往々にしてあるのですよね)。

そんな訳で今回のチェックインは当たりかハズレか、どきどきわくわくしながらロビーに足を踏み入れ、係に案内されてフロントでひと通りの手続きをしていると、伝達がしっかり出来ているのでしょう、バックヤードから馴染みのTさんがにこやかな笑顔で出て来られました。
これだけでまずは嬉しい出だしです。

お互いに挨拶を交わし、「このような時にようこそお越し下さいました」というTさんの言葉を受けて、「悩みましたが、このような時だからこそしっかりと出歩いて、そしてこのホテルもキャンセルせずに泊まることにしました」と答えました。

その後、いつもリクエストしている新聞もこちらから言い出す前に手渡して頂き(これまた嬉しい瞬間です)、Tさんの「ごゆっくりお過ごし下さい」という言葉を背に部屋へ向かいました。

さて、部屋に入ると、窓のそばのサイドテーブルに何やら小さな箱が置いてあります。
手にとってみると、それはウエルカムデザートのダロワイヨのクッキーでした。
そしてそこに一通の手紙が添えられています。

「和田様」と書かれたその封筒を開けると、中から今回の滞在のお礼の言葉を述べたカードが出てきました。

何より嬉しかったのは、それがTさんの手書きだったという事です。
たったひと言ではありますが、その数行にはTさんが多忙の中を縫ってわざわざ書き記してくれた思いが伝わってきて、クッキーはもちろんですが、それ以上に私にとっては嬉しいサプライズでした。

その手紙の行間には、これまでにも、チェックインの時に挨拶できなかったといってわざわざ朝食会場まで出向いて声を掛けて頂いた事や、ちょっとした記念日に利用した旨をチェックアウトの際に伝えたところ、早く言って頂ければお部屋をアップグレードできましたのにと残念そうに言葉を添えて下さった、そんなTさんの暖かさが滲み出ていました。

そして早速フロントへ電話をしTさんを呼び出して、クッキーのお礼と、そしてそれ以上に手書きの手紙が嬉しかった気持ちを直接伝えました。

本当のサービス、本物のホスピタリティとは、決して物に頼らなくても、その人の気持ちの持ち方ひとつでいかようにも伝わることを改めて学んだ、貴重な時間でした。

惜別の映画館

2011.04.26

4月21日、上田市の中心地に長野県内最大級のショッピングモール「アリオ上田」がオープンしました。

イトーヨーカドーを中核として66の専門店からなるこのショッピングセンターには、8スクリーンからなるシネコン「TOHOシネマズ」も併設されています。
上田市近郊に住む映画ファンには嬉しいニュースです。

しかしその陰で、私が幼い頃から慣れしんできた映画館が3館、その長い歴史に幕を閉じます。
その3つは系列館ですが、どの小屋(あえてそう呼ばせて頂きます)も私の心に残るたくさんの名画をこれまで上映してきました。

ここで初めて観た映画は小学校5年生の時の「タワーリング・インフェルノ」。
同じく今でも大好きな「ポセイドン・アドベンチャー」に続くパニック・スペクタクル映画として父にせがんで連れて行ってもらい、2時間45分の間、大興奮したことを覚えています。

そして高校を卒業して東京へ行くまで、そして20代後半で上田に帰ってきてからも、古くからの味わいを持つこれらの映画館が大好きで、時間が空くと通い詰めました。

子供たちと観に行ったジブリの名作の数々。
あまりの衝撃にしばし席から立てなかった「セブン」。
真冬に暖房が弱くてガタガタ震えながらも心はポカポカと暖かかった竹中直人の「東京日和」。
ゴールデンウイークの真っ只中、たったひとりの観客だった「ロッキー・ザ・ファイナル」・・・。
数えればキリがありません。

そして私がこれらの小屋で最後に観た1本、それは若松孝二監督の「キャタピラー」でした。
奇しくもこの日も観客は私ひとりだけで、この秀作がひっそりと上映されている不幸をひとり嘆いたものでした。

ちなみにこの3館の中で一番大きな映画館(とはいってもわずか300席程ですが)は、200円追加で払うと2階で観ることができました。
ここはいつも貸切状態で、その最前列に座ってノビノビと映画を観るのが常でした。

中学や高校の頃は映画館の前で、上映中のポスターと少ない財布の中身とを見比べながら、意を決して窓口に向かったものでした。
そして身を削った代金と引き換えに、初めてその映画と対等に向かい合える気になりました。
極めて個人的な意見ですが、映画でも本でも、私は身銭を切る事が大切だと思っています。

ちなみに私は今の映画館の、全席指定というシステムが苦手です。
自分が好きなポジションがありますし、館内を見渡しながらうろうろと自分の席を見つけることも映画を楽しむ大切な導入部だと、今でも思っているからです。

余談ですが、若い頃初めて「全席指定」に座ったのは、東京の有楽座での「地獄の黙示録」でした。
S席が2500円、A席が2200円だったと思います。
お金がなかった私はもちろんA席で、そこは2階後方の席でした。

監督のコッポラが「この作品はフイルムオペラである」という考えから、この有楽座で上映されるフイルムだけクレジットなし、しかも結末が違うというスペシャルバージョンでロングランされました。
正直、ラストシーンは難解すぎて当時はさっぱり理解できませんでしたが、それから何度も観返し、今は私のベストテンに入る1本となっています。

閑話休題。
そんな古くからの面影を残す上田の映画館が3つ、間もなく姿を消します。
そして惜別の思いと共に振り返る時、私は「映画を観る」という行為と同じくらい「映画館に通う」という行為が好きだということに、改めて気付かされるのです。

上田映劇、そして上田デンキ館1・2、たくさんの思い出を今までありがとう。

上田城千本桜まつり

2011.04.14

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桜の名所として知られる上田城跡公園は今「上田城千本桜まつり」の真っ只中です。

今年は例年に比べ開花が遅く、おまつりの関係者を冷や冷やさせましたが、数日前からようやく蕾が開いてきて、今日はシダレザクラは満開、ソメイヨシノも5分咲きと、いよいよ見頃を迎えて参りました。

そんな中で私は午前中、公園内の「上田酒造協会」の売店当番を終え、つい今しがた帰ってきたところです。
今日は暖かな陽気も味方して観光客の出足も好調、お土産のお酒もおかげさまで結構売れました。

とはいっても震災の影響で、例年に比べるとお客様の数はまだまだ何分の一か。
市役所観光課がまとめた観光バスの数も激減です。
いつもなら週末ともなれば100台を越える観光バスが全国から訪れるのですが。
自粛ムードの中、23日の日曜日に予定されていた武者行列をはじめとする数々のイベントや幻想的なライトアップもほぼ中止です。

それでも桜は桜です。
上田城跡公園を埋め尽くすように咲く桜の花は見る者の心を和ませ、春の到来を感じさせます。
上田の桜はいよいよ来週ピークを迎えます。

地震の余波

2011.03.16

まずは今回の震災で被害に遭われている方々に、心よりお見舞いを申し上げます。

また、東北に引き続いて長野でも震度6の地震が発生しましたが、私の住む上田市では幸いにも怪我や建物の損壊等は今のところ起きておりません。
皆が無事である事をご報告申し上げます。

さて、東北地震の被害がますます拡大する中、先日長野県で旅館を経営する友人と話をしました。

彼は地震が起きてすぐ、知り合いの大勢いる現地へ向けて自家用車に積めるだけの救援物資を積んで出掛け、そのあまりの惨状に言葉を失って帰ってきたそうですが、その余波は旅館業界にも及んでいるそうです。

彼曰く、長野県内の旅館のキャンセル率がかなりの数字に達していて、大げさではなく業界が存亡の危機に面しているとの事でした。

上記の例が示す通り、今回の地震は経済の負のスパイラルまでをも誘発しており、我々はより冷静な判断と行動を求められているのだと思います。

チェックインのひととき

2011.03.10

東京で泊まったホテルでのささやかな、けれどとても嬉しかった出来事です。

今回ご紹介するのは品川区のTPホテル。
このホテルは駅からは少し歩きますが、そのシックな佇(たたず)まいと、最近とみにレベルアップした心地よいサービスとに魅かれて、折に触れ利用する一軒です。

さて、このホテルの通常のチェックインは午後2時からですが、今回私が使ったプランは午後4時からのチェックインとなっていました。
しかしこの日は私の時間の調整が難しく、荷物だけでも置きたいと、無理を承知で午後2時過ぎにホテルに到着しました。

チェックインの際、フロントで私を出迎えてくれたのは「見習い」のネームプレートを付けた若い女性でした。
「見習い」なので不慣れかもと思った私は、あとでその思いを恥じる結果となります。

彼女に名前を告げ、まずは早く到着してしまった事を詫びました。
そして「チェックインの手続きだけして頂ければ、あとは館内のラウンジででも時間を潰しています」と伝えたところ、彼女は笑顔でこちらを見つめながらひとこと。
「お待ちください。お部屋の用意が出来ているか、すぐに確認致します」

待つことしばし、彼女は画面からその笑顔を上げざまに「和田様、お部屋の準備が出来ておりますのでお入り頂けます」。
その言葉がどれだけ暖かく感じたことか。

そしてたったこれだけの事でさえ出来ないホテルが最近多いのですよね。
意地悪くチェックインさせてもらえなかったり、あるいはチェックインさせたことを恩着せがましく言われたり。
しかし彼女はたった数分で、ひとりの宿泊客の心を掴んでしまったのです。

さて、今度は私がホテルに恩返しをする番です。
昼食を取り損ねていた私は、どこか外で食べようと思っていたランチを急遽ホテル内のレストランで取ることにしました。

早速レストランのあるロビーラウンジに降り、フロントの前を横切ると、先ほどチェックインをしてくれた彼女と目が合いました。
その瞬間、数メートル手前のこちらに届くような大きな声で「和田様、先ほどはありがとうございました!」と、これまた嬉しい言葉を掛けてくれました。

私も次のように返しました。
「先ほどはありがとうございました。本当に助かりました。せめてもの感謝の気持ちで、空いた時間で館内のレストランを使わせて頂きます」
向かった先のレストランでの暖かなサービスも併せて、この日のランチが大変心地良かったことは言うまでもありません。

さて、今度はチェックアウトの時の事です。

私を担当してくれたのは若い男性でしたが、隣のブースでは顔馴染みの女性スタッフが他のお客様の対応をしていました。
まずは向かいの男性に「ありがとうございました」と快適な滞在のお礼を述べると、隣の女性スタッフが目配せでお礼を返してくれるのが分かりました。
何だかそれだけで心躍りますよね。

手続きを待っている間、接客を終えたその女性も会話に加わり、しばし雑談に花が咲きます。
そして唐突に「昨夜はお嬢様のお誕生日だったんですね。おめでとうございます」とふたりから言われた時には、驚くと共に大変感激致しました。
実はこの話題は、昨日チェックインの際に「見習い」の彼女と交わした会話の中のものだったのです。

その嬉しさは、もちろん「おめでとう」と言われた事に対してもですが、それ以上に、昨日の女性からそのような細かな情報まできちんと引き継がれていた事に対してのものでした。

立ち去り際にフロントの男性から「またのお越しをお待ち申し上げております」と言われたのに対し、私はいつも以上の気持ちを込めて「ぜひまた伺わせて頂きます」と返答した、爽やかな朝のひとときでした。

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