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新幹線の車内にて

2013.04.28

先日、新幹線に乗った時のこと。
隣に座っていた若いサラリーマンがずっとパソコンを打っていました。
最初は気にせず読書に没頭していたのですが、そのうち彼の打つキーボードの音が気になって仕方なくなりました。

決して乱雑な打ち方ではないんです。
でも延々と途切れなく隣でキーボードをカタカタ打っている音を意識し始めるともうタメです。
読書も散漫になり、文字をただ目で追うだけで、内容が頭にまったく入っていきません。

よほど注意しようかとも思いました。
でも一般的な見地からすると、パソコンを打つ音が果たして騒音に入るのかどうなのか今ひとつ確信が持てず、止めてくれと言い出せない自分がそこにいました。

仕方なく、自分が席を移れば問題は解決すると本を閉じた時、彼のキーボードを打つ音が止み、パソコンを鞄にしまう姿がありました。
ようやく訪れた静寂・・・ほっと安堵です。
しかし私が神経質過ぎるのでしょうか。
車内で、しかも2人掛けの席の隣でキーボードを打ち続ける音、皆さんはどう思われますか?

ちなみにこの時読んでいた本は、高校生の時以来の再読となる村上龍の「コインロッカーベイビーズ」でした。
30年以上も前に寝食も忘れて熱中したこの小説の「熱」を、今の私がまた体感できるだろうか、それを確かめたくて久々に手に取ったのでした。

この本には忘れられない思い出があります。

発売当初、ハードカバーで上下巻2冊に分かれていた本作。
1ページ目から心を奪われ、むさぼるように読み続けて、ついに迎えた下巻のクライマックス・・・果たして結末や如何に。

しかし・・・えっ、最後の数十ページがバラバラ。
しかも存在しないページもある。

何と、あとにも先にも唯一経験した乱丁・落丁本だったのです。

呆然とする間もなく、とにかく続きが読みたくて、私は書店へ走りました。
立ち読みしようと思ったのです。

しかし書店を何軒回っても在庫は一冊もありません。
仕方なく私は購入したお店で交換を申し込むと、今度は上田市立図書館へ自転車を走らせました。
日本文学の棚を隅々から探して、ようやく見つけた時の嬉しさといったら。
やっと出会えたクライマックスの興奮は今でも忘れません。

ちなみに「コインロッカーベイビーズ」は、今読んでも、村上龍が20代後半に炸裂させた溢れんばかりのエネルギーに満ち満ちていました。

上田城の桜

2013.04.13

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我が社の隣にある、上田城跡公園の桜がピークを迎えています。
いつもより2週間も早い開花で、4月5日(金)~22日(日)まで開催中の「上田城千本桜まつり」も例年以上に大賑わいです。

上田酒造協会の出店にも連日大勢のお客様がお見えになり、各蔵のお酒を試飲しながらご購入頂き、ありがたい限りです。

公園内には多くの出店や屋台が軒を連ねていますが、中でも一番稼いでいるのは、猿回しの猿、ひろし君かな?

ちなみに上の写真は、先日飲み会の帰り道で、ぐでんぐでんに酔ったまま立ち寄った上田城櫓門(やぐらもん)前の光景です。
花見客も去ったあと、閑散とし始めた中でのライトアップされた桜が綺麗です。

写真下はまさにこれから猿回しが始まるところ。
ぐるりと取り囲んだ大勢の観光客からは、その都度硬貨だけでなくたくさんの紙幣がおひねりで飛び交っています。

「千年の愉楽」

2013.04.07

映画「千年の愉楽」を観てきました。

中上健次原作、そして若松孝二監督の遺作ともなった本作。

中上の永遠のテーマであった「血と地への回帰」を扱った、しかし逆に映像化が困難なこの小説を、若松監督がいかに作品として仕上げたか、それを考えただけでワクワクと興奮を押え切れない思いでした。

しかしいわゆるメジャー路線からはほど遠い作品なので、上田のシネコンでは掛からないだろうと諦めていたら、なんと長野市の古くからある映画館が上映をしているではありませんか。
拍手喝采!です。
という訳で、時間を縫って長野市まで飛んでいきました。

日曜の昼間だというのに、当日の観客は私を含めて5人。
でもこの閑散さが逆にこの作品には相応しい気もします。
ちなみに若松監督の前作「キャタピラー」を観た時は観客は私ひとりでした。

この映画で何より印象に残ったのは、中上健次が言うところの「路地」を見事に再現したロケ地、三重県尾鷲市の須賀利の集落です。

目の前は熊野灘の海、そしてすぐうしろは山に囲まれ、扇状に開けたこの小さな集落は、30年前に県道が通るまで自動車での行き来が出来ずに、舟だけが唯一の交通機関だった隔絶された地だったそうです。

当初予定していたロケ地が台風で撮影困難となり、急遽代替地として見つけられたこの集落は、しかし中上の「路地」を描き切るのに十分過ぎるほど十分な、見事な光景と空気とを備えていました。

高台に建つ、寺島しのぶ演じる主人公の産婆オリュウノオバの家と、そこから見下ろす集落の一帯。
そしてその小さな「路地」で繰り広げられる、オリュウノオバが取り上げた3人の若者の血と生と性。

私は実際に、中上健次が生まれ育った和歌山県新宮市の「路地」を歩いた事があります。
その時見た光景とは違っていても、この映画にはまさに中上が、そして若松が表現しようとした「路地」が描き切られていました。

もうひとつ大変感動した事があります。
それはこの映画のパンフレットです。

1,000円と値段は高かったですが、これほどまでに充実したパンフレットに出会ったのは久々です。
クランクインからの詳細な撮影日誌や完全版のシナリオまで掲載されていて、これで1,000円なら安いくらいです。
昨今の薄っぺらい、ろくに解説がなく写真だけが載っていて700円も800円もするパンフレットはぜひ見習ってほしいです。

凋落のサービス

2013.03.30

過日、とんぼ帰りで東京へ行った時の事です。

宿泊は、これまでもホスピタリティ溢れるサービスに惹かれて利用してきた、中央区のRPホテルを予約しました。
しかし今回、そんな心地よさへの期待はものの見事に裏切られる結果となりました。

始まりはチェックインでした。

ホテルに着いて、エントランスからチェックインカウンターまで歩く間、これまででしたらどのスタッフもが笑顔で迎えてくれた心地よい挨拶が、今回はひとりとしてありません。
ドアマンもベルマンもコンシュルジュさえも、隣を横切っても一切無言で無視を決め込んだまま。
ここで既にホテルに漂う冷たい空気を感じ取りました。

それに輪を掛けたのが、チェックインを担当した、覇気のない熟年の男性スタッフ。
それはいつもの心温まる笑顔での対応とは正反対の、まるでロボットのように淡々とした、寒々しいチェックインでした。

チェックインの最後に「何かございますか?」と問われたので、「有料でも構わないので、朝刊はいつもの朝日新聞に加えてスポニチを追加して下さい」と返すと「承知致しました。追加料金は要りません」、彼は確かにそう答えました。
しかしそれがあとで波紋を呼ぶ事となります。

キーを受け取り、いざ部屋へ向かうと、そこは私がこのホテルで最も嫌いな、フロアのコーナーをまるでパズルのように埋め込んだ狭いシングルルームでした。
ホテルメンバーであり、それなりの利用実績もある客をこの部屋に通すのか、ここまでの接客に落胆していた私は、そんな事さえ考えてしまいました。
私はすぐにフロントに電話をして、ルームチェンジを申し出ました。

空き部屋を調べると言って一旦電話を切ったスタッフから「空きがある」と回答があったのはそれからすぐでした。
すぐに「研修中」という名札を付けた若い女性がやって来て私を新しい部屋に案内してくれたのですが、彼女との初々しい会話と、そのあとターンダウンにやってきた客室係のおばちゃんとの会話が、この1泊で唯一暖かみを感じた瞬間であった事からも、今回の滞在の寒々しさを感じ取って頂けると思います。

新しい部屋に入って、早速次の予定に出掛ける準備に取り掛かった私は、洗面台にいつものハンドタオルが置いてない事に気が付きます。
すぐに客室係に電話をして「いつもならハンドタオルがあるはずですが」と問い合わせると、「間もなくターンダウンにお伺いしますのでその時にお持ち致します」との返事。
しかし待てども待てども客室係が来る気配はありません。

部屋のベルが鳴ったのは、それから45分後でした。
だとすれば、このクラスのホテルであれば、リクエストがあったハンドタオルだけでも先に届けるべきでした。
それでも部屋を整える人の良さそうなおばちゃんとの会話が、イライラし続けた私の心を解きほぐしてくれたのでした。

翌朝、目が覚めて新聞を取ろうとした私は、そこにいつもの朝日新聞はなく、追加を希望したスポニチだけが新聞受けに刺さっているのを見て唖然とします。

すぐさまフロントに電話をして「おはようございます」と挨拶をした私に対して、電話の向こうの若い男性スタッフから帰ってきた言葉はたったひとこと、「はい」でした。
もはやこのホテルはまともな挨拶すら出来ないのか、そんな失望感が広がります。

事情を説明し、これから朝食を取りにフロントの前を通るから、その時に従来の朝日新聞も渡してくれるよう頼み、数分後私は部屋を出ました。

フロントに立ち寄り、「先ほど新聞の件で・・・」と言った途端にカウンターの向こうから電話に出たらしき男性スタッフが飛んできて、新聞を手渡してくれました。
私は彼に、今後私の購読紙のリストに今回の「スポニチ」も加えておいてもらえないだろうか?と頼んだ瞬間、彼が発した言葉、それは「2紙目からは別途料金を頂戴致します」、そんな冷たいひと言でした。

確かに私はチェックインの時「別料金でも構わないから」とは言いました。
ただ、これは客とホテルとの「あ、うん」の呼吸です。
ましてやチェックインの時は、2紙目も無料と言われています。
正直、定宿で追加の新聞代を取ると言われたのは初めてです。
私は思わず「今日の分も払いますか?」と嫌味を口にしてしまったほどです。
しかし彼は動じることなく平然と「いえ、今日の分は結構です」と、これまた客の神経を逆撫でする言葉を返してくれたのでした。

チェックアウトの際も、いつもならしっかりと係から引き継がれているはずのお詫びも一切なく、ましてや「いつもありがとうございます」という言葉すらなく、淡々と手続きは進み、私はホテルをあとにしました。
このホテルで「また来ます」と言わずに出てきたのはいつ以来でしょう。
結局帰り際もエントランスまで、私に「いってらっしゃいませ」と言葉を掛けてくれたスタッフは皆無でした。

正直なところ、このホテルのサービスの凋落はしばらく前から耳に入っていました。
しかしここまでサービスが乾いているとは。
私がこのホテルを訪れる事は、これでもうしばらく無いかもしれません。

音楽あれこれ

2013.03.21

前回クラシックの話を書いたので、思い出話をもう少し。

学生時代、お金が無い中でよく通ったのは、サントリーホールの、それもP席でした。
サントリーホールはステージを客席が360度取り囲む、当時としては画期的なスタイルのホールでしたが、P席というのはその中でも最も安価な、要はステージの真後ろの席でした。

音響が悪いというデメリットはありましたが、しかし通常のコンサートでは観られない指揮者の表情を真正面から楽しめたり、P席の最前列はオーケストラのメンバーの頭に触れる事ができるほどの至近距離でしたのでメンバーの仕草やリアルタイムの楽譜が目の前で楽しめたりと、当時の私から見れば大変コストパフォーマンスに優れた席でした。

ところで当時から私の大好きなピアニストのひとりが、今は亡きクラウディオ・アラウでした。
そのアラウが晩年に来日公演を行なうという事で、喜び勇んで「チケットぴあ」に電話を掛けまくったものの、サントリーホールでのベートーベンの「皇帝」は全公演が瞬く間に完売。

がっかりしながらも、、彼が神奈川県民ホールで1回のみピアノソロのコンサートを行なう事を発見し、早速電話してみたところ、こちらはかろうじてチケットを取る事が出来ました。

でも驚いたのは当日です。
いざ会場に着いてみると、場内は何とガラガラ。
私は一番安い3階席に座ったのですが、演奏が始まっても客席は3分の1ほどしか埋まりませんでした。
私の周りも他の観客の姿はほとんどなし。
サントリーホールとのこのギャップは何なのでしょう?

しかしそんな中で演奏されたリストの「ダンテを読んで」、その素晴らしさといったら。
まさに「珠玉」という言葉が相応しい、圧倒的な迫力に満ちた名演でした。
最後にアラウが客席に向かって深々と頭を下げたあの姿は今も忘れません。
あまりの感動で、弾けもしないのに、そのあとすぐに分厚い楽譜を買ってしまったほどです。
結局最初の数小節で挫折しましたけど。

ガラガラといえば、学生当時たまたま日比谷公会堂の前を通り掛った時に開催されていた渡辺貞夫のライブ。
時間も空いていたし、いい機会だとその場でチケットを買って入ったら、中は空席だらけ。
ナベサダの名演を聴けば聴くほど、もったいないと心の中で叫んでいる自分がいました。

最近ではしばらく前に軽井沢大賀ホールで開かれた、大・大・大好きな矢野顕子のコンサート。
彼女の素晴らしさを娘にも伝えたくてふたりで行ったのですが、こちらも客席の半分以上が空席で、もったいない!のひとこと。
でもそんな中でいつもと変わらず歌って弾いてそして喋るアッコちゃんは相変わらずチャーミングで、娘とふたりハッピーな気持ちで会場をあとにしました。
それにしても彼女の「ROSE GARDEN」はいつ聴いても凄いなぁ。

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