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日本酒の酸

2008.02.18

日本酒の味わいの決め手のひとつは「酸」であると言われていますし、私自身そう思っています。
「酸」の特徴によって、そのお酒の味わいはがらりと変わってきます。
それでは、日本酒の「酸」とは一体どんなものなのでしょう?

お酒が育っている「もろみ」の中で、「酸」は酵母によって生成されたり、麹から溶出されてきます。
その「酸(詳しくは「有機酸」)」とは、具体的に「乳酸」「コハク酸」「リンゴ酸」「クエン酸」の4種類です。

まず「乳酸」ですが、清酒中に最も多く含まれる酸です。
そしてこの乳酸は、お酒の生育中に細菌の増殖を防ぐ大変重要な役割を担っています。
この乳酸を自然に生成させるか(「生もと系」)、あるいは人工的に添加するか(「速醸系」)で清酒はふたつに大別できます。
味わいとしては非常に強い酸味を持っています。

「コハク酸」は「乳酸」と並んで、やはり清酒中に最も多く含まれる酸です。
旨みのある特有の酸味で、お酒の味わいを作る大切なファクターのひとつです。

「リンゴ酸」は乳酸・コハク酸に次いで多く含まれる酸で、その名の通りリンゴやブドウなどの果実に含まれている、爽やかな味わいの酸です。

「クエン酸」はレモンなどのかんきつ類に多く含まれる酸で、ご想像の通り「すっぱい」味わいの酸です。

ひとえに「酸」といっても、上記の通りそれぞれが特有の風味を持ち、実際に味わってみるとその違いに驚きます。
これらの酸が組み合わさったバランスの上で、日本酒の味わいの一角は決まっていくのです。

日本酒の保存管理

2008.02.16

日本酒をどのように保存するのがいいのでしょうか?
これはよく言われる通り、温度変化が少ない、涼しくて日光の当たらない環境が望ましいです。
では、それは何故なのか、簡単に説明します。

日本酒の品質の変化は、清酒中のアミノ酸等の化学反応によるものですが、お酒の温度が10℃高くなるとその化学反応は2倍の速さで進むといわれています。
具体的には進行が進むと、味わいは苦味を増し、香りは「老香(ひねか)」と呼ばれる独特の匂いが感じられるようになります。
同じくお酒の温度が10℃上がると、やはりアミノ酸の化学反応で、着色も3~5倍の速さで進み、やがて茶褐色を帯びてきます。

着色に関して言えば、直射日光も大きく影響します。
これは清酒中のアミノ酸の一種や、清酒にとっての有害成分であるマンガンが紫外線と反応することが原因で、お酒が直射日光に1時間当たっただけで着色は2倍以上になります。
紫外線が関与するという意味で、日本酒の保存に際しては、日光だけでなく蛍光灯や殺菌灯もできるだけ避けたほうがベターです。
前にも書きましたが、酒屋さんで蛍光灯を使わずあえて暗くしているお店は、それだけ品質に気を掛けているひとつの目安にもなります。

精米歩合って?

2008.02.08

お酒のラベルに「精米歩合××%」と書いてあります。
この「精米歩合」とは何でしょう?

「精米」とはお米をみがくことです。
なので簡単に言うと、「精米歩合」とは、使用しているお米が玄米から削られてどれだけの重さになっているか、その割合の事です。
計算式としては、「精米歩合(%)=精米後の白米kg数÷精米前の玄米のkg数×100」となります。
例えば、「精米歩合60%」という表示があれば、そのお米は玄米から40%削られて60%の重さで使用されているという事です。

ちなみに、我々が日頃食べている飯米の精米歩合は90%前後です。
玄米とほぼ同じ大きさです。
これが酒造米になると数字がぐっと小さくなって、普通酒でも10年ほど前で70%、今は品質が高まるのとあいまって60~65%前後となってきています。
最高クラスの大吟醸ですと精米歩合が30%台というものもざらです。
これはもうお米というより、小さくキラキラ光る宝石のようです。

ではなぜ精米が必要なのでしょうか?
玄米の外側には、お酒の製造上不必要なタンパク質・脂肪・灰分・ビタミン類といった成分が多く含まれています。
精米の目的はこれらの成分を減少させるためです。
ただし、ひとえに精米といいますが、同じ削るのでも、お米が胴割れを起こさず、そして醸造に耐えうるきれいな精米をするためには、精米歩合が小さくなればなるほど、多大な気遣いと日数と経費が必要となります。
考えてみれば、大吟醸クラスのお酒は、最高の酒造好適米を半分以上削って、それは全部糠(ぬか)になってしまうのですから、それだけでも何とも贅沢ですよね。

並行複発酵

2008.02.03

前々回、日本酒の発酵形式に触れました。
おさらいです。
日本酒はひとつのタンクの中で「糖化」と「発酵」が同時に並行して進む「並行複発酵」という発酵形式を取っており、これは世界の酒類でも大変珍しいものであるというお話をしました。
これが日本酒醸造の大きな特徴のひとつであるとも言えます。
それでは、その他の酒類はどうでしょうか。

その前にひとつ基本に触れます。
日本酒のように、アルコール発酵によって出来上がったものをそのまま(あるいは漉して)飲む酒類を「醸造酒」と呼びます。
代表的なものに、日本酒・ビール・ワインがあります。
その醸造酒をさらに蒸留したものを「蒸留酒」と呼びます。
焼酎・ウイスキー・ブランデー・ラム・ジン・ウォッカなどがそれに当たります。
さらに、その蒸留酒に香料や糖などを加えたものを「混成酒」と呼びます。
リキュールなどがそうです。

さて、それでは日本酒・ビール・ワインなどの醸造酒の発酵形式について説明します。
日本酒は前回も書きました通り、

米のデンプン→<糖化>→ブドウ糖→<発酵>→アルコール・炭酸ガス

といった化学変化で出来上がり、この「糖化」と「発酵」が同一タンクで並行して進行します。
これが「並行複発酵」です。
それではワインはどうかというと、原料のブドウそのものに既に糖分が存在しているため「糖化」が必要ありません。
ですので、

ブドウの糖分→<発酵>→アルコール・炭酸ガス

このひとつの化学変化のみでワインが出来上がります。
この発酵形式を「単発酵」と呼びます。
続いてビールです。
ビールの原料は麦芽ですので、糖が存在しないため、日本酒と同じく「糖化」によってブドウ糖を作る必要があります。
ただし、ビールの場合は最初に「糖化」が行なわれ、それが完了したあと改めて「発酵」が行なわれるという、「糖化」と「発酵」の過程が完全に分かれています。
この発酵形式を「単行複発酵」と呼びます。
以上のように、同じ「醸造酒」でも、発酵形式ははっきり異なります。

ちなみに、日本酒製造の場合は、ひとつのタンク内で同時に進行しているこの「糖化」と「発酵」をいかにバランスよく進ませ、そして最終的に目指す酒質に持っていくかが大変重要なのです。

麹の役割

2008.01.26

前々回、「アルコール発酵」の原理について記しました。
復習すると、「アルコール発酵」とは、「糖分(ブドウ糖)が酵母によってアルコールと炭酸ガスに分解されること」です。
例えは下品ですが、酵母がブドウ糖を食べて、アルコールと炭酸ガスというウンチをする、そう言えば分かり易いでしょうか?

では、その「糖分(ブドウ糖)」は、原料のお米の一体どこから発生するのでしょう?
例えばワインならば原料がブドウですので、ブドウそのものの中に糖分がぎっしり詰まっています。
でも、言うまでもなく、お米そのものは決して甘くありません。
お米の成分のほとんどはデンプンで、その他に割合はぐっと減ってタンパク質、脂肪と続きます。
そのどこから糖分は生まれるのでしょう?

では解答です。
お米の主成分であるデンプンが、「糖化」という化学変化によってブドウ糖に分解されるのです。
そして、その役割を担っているのが「麹」です。
「麹」とは、カビの一種である麹菌をお米に生やしたものです。
そして、その麹菌が分泌する物資(「酵素」と呼びます)のいくつかが、デンプンをブドウ糖へと分解していくのです。

もう少し説明します。
デンプンとは、ブドウ糖が鎖状に多数つながってできている、難しく言うと高分子化合物です。
麹菌が分泌する「アミラーゼ」という酵素は、そのデンプンの鎖を次々に切断していき、最終的にブドウ糖に分解してしまうのです。

まとめです。
日本酒の原料であるお米がアルコールとなるまでには、以下のような化学変化が起きています。

デンプン→<糖化>→ブドウ糖→<発酵>→アルコール

日本酒の仕込みタンクの中では、麹菌が作り出した酵素と微生物の酵母の両方が存在しており、すなわち「糖化」と「発酵」が同一タンクの中で同時に行なわれています。
これを「並行複発酵」と呼びますが、この発酵形式は世界的にも珍しい、日本酒製造の大きな特徴のひとつです。
この辺の話はまた後日。

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