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「19BY大吟醸」発売開始

2008.10.09

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本年度分の「和田龍大吟醸」、発売を開始しました。
今年の3月に搾り、ひと夏寝かせて熟成させ、たっぷりと旨みを乗せた上で、満を持しての発売開始です。

私が言うのも何ですが、おいしい!です。
香りはほのかな柑橘系、例えばライムやグレープフルーツを思わせるフレッシュでスウィーティな芳香が鼻腔をくすぐります。
味わいは熟成からくる柔らかな甘さと旨味、そこにさり気ない酸味が絡んでハーモニーを醸し出し、口の中でふわりと広がります。
その柔らかさはまるでシルクのようです。

軽く冷やしてお召し上がり頂ければ、甘みが引き締まってよりシャープな味わいに。
そして常温もお勧めです。このお酒が持つふくらみや繊細さをダイレクトに感じて頂けます。

お猪口というよりはグラスに注いで、香りを楽しんで頂きながらひと口ひと口ゆっくりお召し上がり下さい。
食前酒として、あるいは料理の先付け、お刺身、お蕎麦といった素材の味わいをしっかり活かしたどちらかといえば淡麗な料理と合わせてどうぞ。

< 和田龍大吟醸 >

・使用米 :山田錦
・精米歩合:38%
・使用酵母:協会9号
・アルコール分:16.9
・酸 度 :1.3
・アミノ酸度:1.1
・小売価格:3675円(税込)

本醸造って?

2008.09.16

秋の気配がいよいよ感じられ始めた今日この頃。
信州上田という場所柄もあり、弊社にも多くの観光のお客様がご来店されます。
そしてお時間があるお客様には、(もちろん運転されないことを確認差し上げた上で)心行くまでお酒のご試飲をして頂きます。
その際にお客様からいろいろなご質問を頂くのですが、正直に申し上げますと、お酒のラインナップもいろいろある中で一番お客様にとって分かりにくく、私も説明しづらいのが「本醸造」というお酒です。

ちなみに「本醸造」の酒税法上の定義は以下の通りです。
・原材料は米・米麹・醸造アルコール。
・精米歩合は70%以下。
・香味・色沢が良好である。
・醸造アルコールの量は白米の重量の10%以下(白米1トンに対して100%アルコール116.4リッター以下)とする。

全然分からないでしょう?
特に4点目。
要は添加する醸造アルコール量を普通酒よりも少なめにしっかり制限してますよ、という事なんですけど、お客様にとってはまるっきり意味不明ですよね。

例えば「吟醸酒」なんかは、「精米歩合60%以下。すなわちお米の4割を削って6割以下の大きさにしたお米だけを使用したお酒は全部『吟醸酒』です。でもその味わいは千差万別。あとはお客様の好みでお決め下さい」なんて説明できるのですけれど、「本醸造」は捉えようがなくて難しいです。
「本醸造」の定義にある「精米歩合70%以下」のお酒なんて、今は当たり前ですし。

あえて「本醸造」を私なりにお客様に分かりやすく説明するとすればこんな具合でしょうか。
「原材料の一部である醸造アルコールを添加する量を制限したお酒です。これをじゃぶじゃぶ入れ過ぎてしまうとコストの安い三増酒になってしまうのですけど、しっかりと造り上げたお酒に少量を入れることでそのお酒に軽快さが増して、飲みやすくさらりと飲み飽きしないお酒になるのです」
時にはこんな説明も加えます。
「醸造アルコールはコーヒーで言えばミルクの役割でしょうか。例えばブラックのコーヒー(=純米酒)は豆の味わいや風味がストレートに分かりますけれど、それが強いとか苦手と感じるお客様もいらっしゃいます。そんな時、ごく少量のミルクを加える事で、コーヒーそのもののスタイルは残したまま味わいは優しく、そして飲みやすくなります」

でも結局一番お客様に分かって頂けるのは、「本醸造」がどういう定義なのかではなくて、我が社の「本醸造酒」はこういう特徴です、というそのものズバリの説明なんですね。
「お酒本来の味わいをしっかりと残しながらも、口当たりは軽快で喉越しも抜群。ですので何杯飲んでも飲み飽きしません。
これからは『食欲の秋』ですから食事と一緒に召し上がって頂けると料理もお酒もより一層引き立ちますよ。せっかく信州上田にいらっしゃるのですから名産の松茸をはじめとしたキノコ料理、あるいは香り高い新そば、かような素材本来の持ち味をしっかりと活かした料理と合わせて頂ければ相性抜群です。和食だけでなくバターやクリームを使った洋食にもよく合います。例えばこの季節の鮭を使ったムニエルなんかもいかがでしょうか?」
こんな具合です。

東広島「2008酒まつり」

2008.09.03

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毎年10月に行なわれている東広島市の「酒まつり」、今年も10月11日(土)・12日(日)に開催され、弊社も出品します。
平成2年から始まったこのイベント、会場の西条中央公園には全国の地酒約900銘柄が一同に集まり、例年20万人が来場するという、そのスケールの大きさに圧倒されます。

日本で唯一お酒に関する国の研究機関である「独立行政法人 酒類総合研究所」があることでも知られる東広島市、酒どころ広島県が活況を呈している様子が伝わってきますが、実は私にとっても広島県は大変思い入れが深い場所であります。
と申しますのも、私が公私ともどもお世話になっている若手の蔵元が何人か広島県にいらっしゃるのです。
福山市「天寶一(てんぽういち)」、呉市「宝剣」、東広島市「富久長」、東広島市「加茂金秀」、これらの蔵元がその方々なのですが、皆さん経営者兼杜氏あるいは製造責任者として日々邁進されています。

私がこの方々と知り合ったのは数年前なのですが、いつもお目にかかるたびに日本酒に掛ける思いや製造技術のあれこれを教えて頂き、そして話すたびにたくさんの勇気と元気を頂戴しております。
毎年一度は、以前このブログでもご紹介した上田市の隣に位置する青木村田沢温泉「ますや旅館」に皆さんお越し下さり、名湯や素晴らしい料理を堪能しながら公私入り混じっての様々な話題で盛り上がります。
逆に2年前には、ぜひ一度広島まで勉強に来ないかというお誘いを頂いて私が広島の地に赴き、皆さんの蔵をひとつひとつ見学させて頂きながらたくさんの事を学ばせて頂きました。

かような訳で、私にとって広島とは、またひとつ思い入れの深い県であります。
余談ですが、尾道市を見下ろすようにそびえる山の頂上にある千光寺公園、そこから眺めた瀬戸内海の素晴らしい景色は忘れません。

苦汁の決断

2008.08.26

秋を目前に向え、清酒はいよいよ「ひやおろし」の時期になって参りしまた。
「ひやおろし」とは、冬に造った清酒をひと夏越えて寝かせ、秋口に入ってほどよい熟成状態で出荷する清酒のことを言います。
そして、酒税法上の厳密な決まりはありませんが、通常は、お酒を搾った直後に一度だけ「火入れ」をして出荷前には「火入れ」を行なわない「生詰」の状態のものを指します。

ちなみに清酒は普通、搾った直後に一回、そして出荷前にもう一回、合わせて2回「火入れ」と呼ばれる加熱処理を行います。
対して、一度も「火入れ」を行なわないものを「生酒」と呼び、搾った直後の「火入れ」は行なわず出荷前のみ「火入れ」を行なうものを「生貯蔵酒」と呼びます。
「生酒」「生詰酒」「生貯蔵酒」の違いはそこにあります。

さて、その「ひやおろし」ですが、弊社は今年も悩んだ末に発売を見送りました。
今「ひやおろし」は清酒の需要拡大のために、長野県酒造組合も発売日を9月9日に統一するなど業界上げての取り組みとなっています。
ですので当然弊社としても追従しなければならないのは山々なのですが、ではなぜ発売を見送ったか?
「ひやおろし」として製造・貯蔵したお酒がないからです。

上で申し上げた通り、「ひやおろし」の定義は「ひと夏越えて熟成したもの」そして「生詰酒」、たったこれだけですから、この条件に合致するお酒はもちろんあります。
でも、仮にその商品に「ひやおろし」の肩書きを付けて発売した時に、従来の商品と何が違うのか、この説明を自信を持ってすることができないと思ったのです。

例えば同じお酒でも、通常は冷蔵貯蔵しているものを、「ひやおろし」で出荷することを念頭に置いて一部を常温で熟成した、そしてその結果秋にこそ飲んでふさわしい味わいに熟成した、これならば胸張って商品として出荷できます。
そして多くの蔵元さんは、方法は違っていても、このように「ひやおろし」として出荷することを目的として、それ用のお酒を貯蔵管理している事と思います。
弊社は少量少品種のため、特に特定名称酒は一種類の数量が限定されていることもあって、それを更に「ひやおろし」として枝分けするという事が物理的にも気持ちの上でも困難なのが実情です。

ただ、「ひやおろし」を出してほしいというお客様の声がここに来て多く届いているのも事実です。
今年はこのような苦汁の決断をしましたが、来年は秋口にたっぷりと旨味が乗った「ひやおろし」のお酒を前向きに検討していきたいと思っています。

ささやかな出来事

2008.08.19

先日、所要で福島県いわき市郊外まで足を運びました。
1日の日程を終え、宿泊したのは海沿いにある小さなビジネスホテルでした。
ビジネスホテルといっても、どちらかというとちょっとお洒落でアットホームなペンションという感じで、スタッフの女性も笑顔を絶やさないフレンドリーな対応で我々を出迎えてくれました。

さて、夕刻到着した我々一行は夕食を取るため1階にある食堂に出向きました。
連れのみんながビールや焼酎など飲みたいアルコールを注文する中、私だけひとり無理を承知で「日本酒をお燗できませんか?」と頼んでみました。
夏の真っ只中で、ましてやここは小さくてペンションのようなビジネスホテル、お燗なんて頼んで驚かれて、もしかして断られるかもと恐る恐る聞いてみたのですが、その女性は軽く頷いて厨房に入って行き、しばらくして出てきた彼女の手には徳利とお猪口が握られていました。
「いわき市の地酒○○です。とってもおいしいですから飲んでみてくださいね」
笑顔でそう言われて手渡されたお酒は適度なぬる燗で、確かにうまみが滑らかに口中に広がる、とてもおいしいお酒でした。
たぶん彼女自身がしっかり湯せんしてきてくれたものと思われます。
そのおいしさは、お酒そのものに加えて、その女性の温かな気持ちも合わせて感じられたものだったと思います。
「お酒」と頼むと銘柄も告げずに持ってくるお店が多い中、当たり前のこととはいえしっかりと銘柄を伝え、しかもそこにさり気なく暖かなひとことを添える、たったそれだけのことでおいしさや楽しさは倍増することを実感したひとときでした。
結局そのあと何本もお銚子をお代わりしてしまい、部屋に帰ってからもみんながわいわいと賑やかに話に昂じる中、私ひとり睡魔の向こうに引きずり込まれていったのでした。

ちなみに翌朝、早々に起床してロビーでテレビを見ていると、目の前に缶コーヒーの販売機があるにも関わらず、件の女性がわざわざそこにいる全員にカップに注がれたホットコーヒーを出して下さいました。
つまりここはそういうホテルなんだなと、何だか改めて心温まる思いに包まれました。

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