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アルコール発酵の停止

2008.12.06

親しい方から、アルコール発酵はどのようにして止まるのか、質問がありました。確かに言われてみれば、このことは分かっているようで実はあまり理解されていない事かもしれないと思い、今回はこの質問にお答えします。

今まで何度か触れている通り、「アルコール発酵」とは、微生物である「酵母」が、「糖分(ブドウ糖)」を「アルコール」と「炭酸ガス」に分解することを言います。
仕込みの間、清酒のもろみ中にあるブドウ糖は酵母によってどんどんアルコールに分解され、それに伴ってもろみのアルコール度数も高くなっていきます。(=糖分も比例して減っていき、すなわち日本酒度も上がっていきます。)
そしてアルコール発酵が止まるという事は、言い換えればもろみ中の酵母が無くなる、あるいは死滅する事を意味しています。
ではそれはどのように成されるのでしょうか?

まず酵母は、自身が生成したアルコールによって死滅します。
通常、酵母はアルコール度数が20度まで上がると完全に死滅すると言われております。
出来上がった清酒の原酒は16度~18度ですので、アルコール発酵の途中でほとんどの酵母が死滅すると考えられます。
また、醸造アルコールが添加されるお酒は、それによってアルコール濃度が一気に高くなるので、やはり酵母は一気に死滅します。

ただ、それでもまだ生き残っている酵母はいます。
上槽(お酒を搾ること)によってもまだ残存している酵母、加えて清酒の熟成に不要な不純物(=「滓(おり)」)を取り除くために「滓引き」が行われます。

「滓引き」とは、搾ったばかりのまだ白濁しているお酒を数日間静かに置いて、タンクの底に沈殿した「滓」を取り除く操作を言います。
清酒タンクの下部には、お酒を出し入れする穴が上下2個付いています。
上の口を「上呑(の)み」、下の口を「下呑み」と呼びます。
「滓引き」はその「上呑み」を使って、清澄な上澄みだけを静かに別のタンクに移す操作です。
この事によって、残存酵母もきれいに除去されていきます。
「滓引き」は清酒が健全に熟成するために、欠かすことのできない過程です。

食べちゃダメ!

2008.11.29

酒造りのこの時期になると、そこに携わる者は口にしてはならないと言われる食品があります。
私も大好物ですが、この時期は我慢して断念しています。
何だか分かりますか?

答えは納豆です。
お酒造りに欠かせない麹菌、そして納豆を作るときに用いる納豆菌、とぢらも同じ微生物なのですが、両者とも繁殖に適した温度帯が似通っていて、しかも繁殖力は納豆菌が非常に強いので、麹菌の中に納豆菌が入り込むと麹菌を駆逐してしまうのです。
もし朝食に納豆を食べて、うっかり体や洋服に納豆菌を付けたまま麹室に入ってしまうと、納豆菌が繁殖して麹そのものが汚染されてしまう、なんて事にもなりかねません。
今はたいぶ耐性の強い麹菌が出ていて、以前より納豆菌による汚染の心配はなくなりましたが、それでも心構えとして、そして万が一を考えて、納豆は食べないという考え方が一般的だと思います。

実際に納豆菌が繁殖するとどうなるのでしょうか?
こればかりは聞いたり調べたりするしかないのですが、麹菌が納豆菌に汚染されると、文字通りヌルヌルと粘り気が出て、しかも殺菌に対して非常に抵抗力を持つようになるので、一度麹室に繁殖してしまうと除去が非常に難しいそうです。

もし皆さんがこの時期、どちらかで蔵元見学をされる時は、朝から納豆は控えて下さいね。

滓下げ

2008.11.15

お酒をビン詰めする前、「滓(おり)下げ」という作業を行うことがあります。
これはお酒に溶け込んでいるタンパク性の混濁成分を除去する作業です。
弊社も大仕込みのお酒で時間が立って熟成してきた場合に、酒質に応じて行う時があります。

火入れ(清酒を65℃前後に加熱して殺菌する作業)をして貯蔵したお酒は、その間に次第に透明感が悪くなり、時として薄く濁ってくる場合があります。
これは、お酒の中に溶け込んでいる糖化酵素(麹菌によって生成される。タンパク質の一種)が「火入れ」によって不溶性の物質に変性し、貯蔵中に濁りとなって出てくるからです。
この滓を沈殿させる作業を「滓下げ」といいます。

「滓下げ」の方法ですが、弊社の場合、柿シブとゼラチンといった「滓下げ剤」を使っています。
柿シブの持つタンニンはタンパク質を凝固させる力が強いので清酒中の滓を固め、そこにさらにタンパク性物質のゼラチンを投入することで、先程固まったタンパク質と一緒に絡めて、滓下げ剤自体を滓として沈殿させてしまうのです。

ただやはり、これは個々の考え方ですが、「滓下げ」は清酒中のタンパク質を除去するわけですから、酒質が多少なりとも変わることを考えれば、行わないことに越したことはありません。
最初に申し上げた通り、弊社の場合もあくまでも大きな仕込みでしかも熟成が進んだものに限定しており、吟醸クラスのものには行っておりません。
大切に醸したお酒をあくまでもその状態のままでお客様に提供する、そういう意味では「無濾過」に通じるところがあります。

H20BY「登水(とすい)」

2008.11.08

本年度の仕込みで4年目を迎える「登水(とすい)」、おかげ様で増量の見込みです。
今年もこれまで同様、「登水・吟醸酒」は精米歩合59%の山田錦、「登水・純米酒」は精米歩合49%の美山錦で行う予定です。

「これまで同様」と書きましたが、実は悩みもありました。
と申しますのも、従来の「吟醸酒」を、アルコール添加せずに純米化したらどうだろうという考えが一時頭の中をよぎったのです。
両方とも純米酒として、「山田錦純米酒」と「美山錦純米酒」の2本立てとしてみようか、そんな思いが心を駆け抜けました。

今、「アルコール添加」に対する風当たりが強くなっているのは事実です。
それは、「米・米麹」のみを原材料として造られる純米酒こそ本来の日本酒で、戦時中の「三増酒」の流れを汲むアルコール添加酒とは一線を画すべきではないかというご意見です。

アル添の有無に関しては、私が信頼している酒販店の経営者にも相談しました。
そんな中で心打たれた言葉は「とぢらでもいいです。私は和田さんが出したいと思った酒を売ります」というひと言でした。
これで目が覚めた思いでした。

結論を申し上げますと、今年度も「登水・吟醸酒」についてはアルコール添加致します。
確かにアル添に対するご批判があるのは受け入れます。
ただ、現在のアルコール添加の技術とは、はるか昔の三増酒のようにただじゃぶじゃぶと注ぎ込むのではなく、お酒に軽快さと飲みやすさを加え、品質を安定させ、酒質をグレードアップさせるための繊細かつ大切なひとつの手段として認められ、そして研究されているものです。

「登水」に関していえば、「吟醸酒」と「純米酒」、この2種類の味わいの違いを明確化するために、「吟醸酒」はひとつの技術としてアルコール添加致します。
「山田錦」と「美山錦」、「精米歩合59%」と「精米歩合49%」、そんなスペックの違い同様、「アル添あり」と「アル添なし」という要素を加えて味わいの間口をさらに広げ、お客様に日本酒の多様性を楽しんで頂きたいと思います。
しかもできるだけお安いお値段で。

お酒は対話商品です。
お客様の嗜好や思いを把握してそのお客様に合った商品をお出しする、更には新たな味わいの世界を紹介してお酒を一層好きになって頂く、「登水」がそんな一助になれればいいと、本当に生意気を申しますが思っております。

ところでもうひとつ、使用する酵母をどうするか今悩んでいます。
これまでは「登水・吟醸酒=協会9号」、「登水・純米酒=アルプス酵母」でやって参りましたが、より良い酒質とするために柔軟な思考で、変更も視野に入れて最終決定したいと思います。

まだまだ発展途上のお酒ではありますが、毎年少しずつでも進化して、ひとりでも多くのお客様に喜んで頂けるために頑張ります。

長野の酒メッセ2008

2008.10.19

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10月16日(木)、ホテルメトロポリタン長野において「長野の酒メッセ2008」が開催されました。

今年で14回目になるこのイベント、長野県内のほぼ全蔵元が参加して、各ブースで各社のお酒が振る舞われます。
来場者は1500円(チラシをご持参頂ければ1000円)の入場料で、午後2時から午後8時まで無制限で飲み放題、長野の地酒の魅力を満喫して頂けます。
と同時に、各蔵の生の声が聞くことができる貴重な機会でもあります。

その他にも1フロアを貸し切っての各部屋やホワイエでは、業界関係者向けのセミナー、「ひやおろし」や「原産地呼称認定酒」の展示試飲、酒燗器や酒器の販売、出店各社の清酒販売などが行われ、更には先着1500名様に各蔵からご提供頂いたお酒のお土産まで付くという、とにかくボリュームたっぷりの内容となっています。

当日はおかげ様でオープン前からたくさんのご来場を頂き、午後6時を過ぎる頃には立錐の余地もないほどのお客様で会場が埋め尽くされ、お土産コーナーにも長蛇の列が出来るなど、終日大盛況となりました。

弊社ブースにもたくさんのお客様にお越し頂き、大吟醸をはじめとする6種類の清酒をお飲み頂きながらお客様との話に花が咲きました。
また、しばらくお目に掛かっていなかったお客様にもたくさんお声掛けを頂き、忙しい中にも嬉しさ満開のひとときを過ごすことができました。

ただひとつ、このイベントには決まりがあって、それはおつまみの持ち込み禁止。
会場内でも一切販売はありません。
もちろんお酒にとっておつまみや酒肴は欠くことのできない大事な要素ですが、でもこの日は何よりもまず長野のお酒そのものの魅力を十分に知ってほしい、そんな思いが込められています。
会場は長野駅前ということで、もちろん周囲にはたくさんの飲食店があります。
「酒メッセ」の余韻はぜひそちらでお楽み下さいというメッセージも込められています。

なお、今年は最終的に1900人のご来場者がありました。
(写真はオープン直後の会場内)

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