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「ひやおろし」最盛期

2009.09.12

前々回の当欄でも書いた「ひやおろし」、今最盛期を迎えています。
かくいう私もせっかくの秋の味覚だからと、9月になってから10本以上の「ひやおろし」を楽しんでいます。

ここでおさらいです。
「ひやおろし」とは、冬の厳寒期に仕込んだお酒をひと夏越して貯蔵し、秋口になってしっかり円熟したところで出荷する、いわばこの季節の日本酒の風物詩です。
9月の声を聞いて、各蔵から一斉に発売されます。

この「ひやおろし」、実は酒税法上の厳密な規定がありません。
裏返せばどんなお酒でも「ひやおろし」を名乗れるという事になります。
そんな中で、「ひやおろし」のあくまでも一般的な定義として、
①冬に仕込んでひと夏越したお酒であること。
②出荷時には「火入れ」を行なわない、いわゆる「生詰め」であること。
以上2点が挙げられます。

「火入れ」に関して少し説明します。
「火入れ」とはお酒を65℃前後に加熱する事で、これによって殺菌と酒質の安定化が図れます。
通常の日本酒は、搾った直後と瓶詰めする前の2度「火入れ」を行ないます。
対して、「火入れ」を一度も行なわないのが「生酒」です。
「生酒」は搾った時のフレッシュな状態が保たれる代わりに冷蔵貯蔵の必要性が生じます。

そして一度だけ「火入れ」を行なうのが「生詰酒」と「生貯蔵酒」ですが、このふたつは「火入れ」の時期によって呼び方が違います。
即ち、搾った直後のみ「火入れ」を行ない、瓶詰め前は「火入れ」をしないものが「生詰酒」で、「ひやおろし」はこちらのタイプです。
逆に、搾った直後は「火入れ」を行なわず「生酒」の状態で貯蔵し、瓶詰め直前に初めて「火入れ」をするのが「生貯蔵酒」です。

「生詰酒」は搾った直後に「火入れ」を行なうことで熟成に重点を置くのに対し、「生貯蔵酒」は出荷直前に「火入れ」を行なう事で「生酒」のフレッシュさを保ったまま常温流通を可能にする目的があります。

話を戻します。
そんな訳で「ひやおろし」は定義自体が緩いので、逆に蔵元それぞれの考え方で出荷されるお酒の状態も変わってきます。
例えば、お酒そのものは純米酒かアル添した吟醸酒か。
アルコール分に関していえば「原酒」のままか、割り水して通常のお酒と同じ15度前後にしてあるか。
貯蔵方法は常温か冷蔵か、冷蔵だったら何度の冷蔵庫に寝かせるか。
ちなみに弊社は、美山錦59%の純米酒を「原酒」のまま、搾った直後から4℃の冷蔵庫で貯蔵し(温度が低過ぎると熟成があまり進まないので)、直前に冷蔵庫から出して販売しています。

冒頭に既に10種類ほどの「ひやおろし」を楽しんだと書きましたが、本当に味わいは千差万別です。
舌の上に乗せた瞬間にふわりと柔らかさを感じる、言い換えればきれいに熟成が進んでいる「ひやおろし」に出会うとしみじみと「美味しい!」と思います。

1本の「ひやおろし」を「冷や」「常温」「ぬる燗」と飲み方を変えると、これまたがらりと味わいも変わります。
それもまた秋の味覚「ひやおろし」の楽しみ方のひとつです。

ひやおろし発売

2009.08.29

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この秋、弊社としましては初めての「ひやおろし」を発売致します。
その名も「和田龍純米酒 ひやおろし」です。

「ひやおろし」に酒税法上の厳密な定義はありません。
ただ一般的に「ひやおろし」とは、厳寒期に造った純米酒を、搾った直後に一度だけ「火入れ」を行ない出荷時には「火入れ」を行なわず(=「生詰め」。一度も「火入れ」を行なわない「生酒」とは違うので注意)、ひと夏越して熟成させた状態で秋口に出すお酒を言います。

昨年位から「ひやおろし」への注目が高まり始め、それに伴い長野県酒造組合を中心に「重陽の節句」に当たる9月9日を「ひやおろし解禁日」として設定し、「ひやおろし」のPRと拡販が始まりました。
弊社としましても、その時点で上記の条件に当てはまるお酒は当然あったですが、それは「たまたまあった」だけで「ひやおろし」として販売するために貯蔵・熟成したものではなかったため、考えた末に昨年は販売を断念しました。

しかし今年はその反省を生かし、春先に特別純米酒が出来上がったと同時にそのうちの一部を秋の「ひやおろし」用として囲い、通常の特別純米酒とは別の温度で(4℃の冷蔵庫にて)秋に向けて貯蔵を行ないました。

そして先日、そのうちの1本を満を持して抜栓、緊張しながら利き酒を致しました。
もしこれで思うような酒質となっていなければ販売を断念することもちらりと頭をよぎりました。
そんな思いの中、緊張と共に味わった「ひやおろし」は、香りはまったりと柔らかく、味わいもふくよかでキレよく、その出来栄えに◎合格、思わず胸を撫で下ろしながら「和田龍純米酒 ひやおろし」の発売がその瞬間決まりました。

「和田龍純米酒 ひやおろし」
・使用米:美山錦
・精米歩合:59%
・アルコール度数:18度(原酒)
・日本酒度:+3
・価 格:1.8L/2,625円

9月9日解禁(販売開始)です。
秋の味覚をどうぞ存分にお楽しみ下さい。

真夏の晩酌

2009.08.22

残暑厳しい今日この頃、しかし暑さに強い自負がある自分としては吹き出る汗も何のその、動けば動くほど減量にも繋がると前向きに考えて肉体労働に勤しむ毎日です。

ちなみに私専用の軽トラックはエアコンがありません。
それでも両窓を開けて走れば問題なし。
暑くなければ夏ではないと、上田近辺を連日快走しています。
窓を開けて右腕を窓枠に掛けて運転しているので、右腕だけが真っ黒に日焼けしています。

でも思えば、今年の夏は例年に比べてかなり涼しかった気がします。
昨年までは、仕事に向かうために早朝に自宅の玄関を出ただけで「あぢーっ」と叫ぶ日も多かったのですが、今のところ今年はそんな日は数えるほどです。
8月上旬までは例年になく雨も多かったですしね。

そして季節に関わらず、仕事のあとの楽しみはやっぱり夜のお酒。
晩酌用に用意してある他の蔵元のお酒をずらりと並べて、一日の疲れを癒しながら杯を重ねる時間は至福のひとときです。
夏は冷蔵庫に四合瓶を何本も詰め込むので、場所を取って妻に怒られています。

いろいろなお酒を飲ませて頂いて、最近改めて思うのは「飲み飽きしない」という事の大切さです。
バランスの取れた味わいで、するすると喉を通り、飲み込んだ瞬間についもう一杯手が伸びる、そんな絶妙なお酒に出会った時は素直に感動します。

でも「飲み飽きしない」お酒というのは、決して「淡麗辛口」とイコールではないんですね。
確かにサラリと軽快ですいすい飲めるお酒は何杯も行けますけど、それは「飲み飽きしない」というよりは「飲み易い」といった表現が合うお酒です(もちろんそのようなお酒も必要不可欠です。特に日本酒をこれから飲み始める方々のためには)。

「飲み飽きしない」お酒というのはもう少し幅が広がって、香りも味わいもしっかりある上で、甘味・苦味・酸味・旨味等のバランスがよく、そして何よりキレ(とても大切です!)があってスッと喉を通っていく。
そしておいしさを楽しんだあとはその余韻だけが口の中に心地よく残って、つい次の一杯に手が進んでしまう、そんな表現がぴったりのお酒だと思います。

先日も日頃から大好きな北陸の蔵元の、その中でも一番好きな純米吟醸を口にして、まさにそんな思いを新たにしたところです。
この蔵元は、どのお酒を飲んでもその蔵元のお酒だと分かる事にまず感動するのですが、その日も封を開けて、他のお酒と一緒に飲み進めながらも、そのお酒だけはいつの間にかほとんどカラになってしまった事に気が付いて、いい意味で愕然としました。
知らず知らずのうちに杯を重ねているんですね。
そして今でもその香りや味わいはしっかりと蘇ってきます。

酔った頭で我に返り、ビンを見つめながら「うーん」と唸ったままただただ感動、日本酒の魅力に改めて酔いしれた一瞬でした。
そのあとすぐに潰れましたけど。
気が付いたら茶の間で大の字になったまま午前3時・・・いつもの事です。

酒粕の季節

2009.07.27

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今年も夏の酒粕が出荷のピークを迎えています。
主に漬け物用として、漬物の専門店・酒販店・スーパーそして一般のお客様まで広くご利用頂いています。

ここで酒粕についてざっとおさらいをします。
まず「酒粕」とはお酒をしぼったあとに残る固形分です。

冬の間よく見かける板状の粕(=「板粕」)は、お酒をしぼる圧搾機の中の何十枚もの板に、お酒が通る際に分離してくっ付いたものです。
それを1枚1枚丁寧に剥がして「板粕」として出荷します。

「板粕」は、それとは別に夏用の「踏み込み粕」として仕込まれます。
冬の間に「板粕」をタンクや槽の中に詰めた上で、空気を抜くために足でしっかりと踏み込み、あとはそのまま夏まで寝かせます。
酒粕には酵母が多数残存していますから、その間にも粕中では発酵が進み、夏を迎える頃には板状の粕はすっかり姿を変え、半固形状の「踏み込み粕」となります。
ですから時折、夏に「板粕」をご希望されるお客様がいらっしゃいますが、冬に販売する分を除いてはすべて夏用に踏み込んでしまいますので、基本的には夏に板粕は残っていないのです。

そしてよく知られているように、酒粕は栄養の宝庫です。
以前の当ブログでも触れましたが、酒粕はアミノ酸・ビタミン・ミネラルをはじめとした多数の栄養成分を多量に含み、しかも低カロリーの、極めて優れた健康食品です。
今の時代、特に若い方は酒粕に触れる機会が減っているかと思いますが、粕漬けや粕汁などの粕料理に出会った時はぜひ積極的に味わってみて下さい。
栄養はもちろんのこと、味わいも美味しいこと請け合いです。

ウイスキー蒸留所

2009.07.21

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上田から車で30分程の、西軽井沢に位置する「メルシャン軽井沢美術館」へ行って参りました。
普段から前を通る機会は多いものの素通りする事が毎回で、今回も近くを運転中、時間に余裕があったのでふと思い立って立ち寄ってみたのは、夏の日差しが降り注ぐ日曜の午後でした。

ここは「美術館」とはいうものの、敷地内で現在もシングルモルトウイスキー「軽井沢」を製造しているれっきとした現役の蒸留所で、その他にも人気のレストラン「エルミタージュ・ド・タムラ」、緑に囲まれた爽やかな庭園、野外で寛ぐ事もできるカフェ、ウイスキーショップやミュージアムショップなど、いくつもの施設が楽しめる開放的な空間となっています。
この日の美術館は次の展覧会の準備で閉館中だったのですが、それでも敷地内を散策しながらの楽しいひとときを過ごす事ができました。

ウイスキーと食のショップ「メルシャンプラザ」に立ち寄ると、ちょうど入口の看板に「ウイスキー蒸留所見学」の案内が出ていて、「次回見学は15時から。ご希望の方は少し前にこちらまでお集まり下さい」と書いてあったので、せっかくだからとそれまでの時間を店内で過ごし、やがてスタッフの女性から声が掛かったのを合図に私もその列に加わりました。

係の女性が集まった10人程を引き連れて、敷地の片隅にある、普段は「関係者以外立入禁止」の蒸留所内へと我々を誘導します。
施設そのものはとても小じんまりとしていて、麦芽の糖化槽・発酵槽そしてウイスキー蒸留のシンボルともいえるポットスチル(蒸留釜)が並んでいる蒸留所、続いて出来上がったウイスキーを長い眠りに就かせる貯蔵庫、その2つの建物を、説明を聞きながらざっと20分程で回り終えました。
印象的だったのは、真っ暗な貯蔵庫へ入った時のかぐわしい香り。
大量のシェリー樽が醸し出す芳香が暗い室内に漂って、その香りが熟成までの長い時間の重みを感じさせてくれたのでした。

ちなみに私はウイスキーも大好きです。
基本はスコッチウイスキーなのですが、日本産のウイスキーの美味しさは、他のウイスキーとはまた一線を画す特徴と持ち味があると思っています。
例えて挙げれば今回のメルシャン「軽井沢」、ニッカ「余市」、サントリー「山崎」・・・。
どれもスコッチやアイリッシュやバーボンに負けない、出色の味わいです。

馴染みのバーへ行き、ウイスキーの銘柄だけを指定すると、最近はその中から「カスク・ストレングス」、即ち一切加水していない、アルコール度数60度前後の樽出し原酒を勧められます。
以前はなかなか手に入らなかったこの「カスク」が今はかなり出回るようになっています。
確かに度数も高く、ストレートで飲むにはかなり強いのですが、水割りにするにはやはり惜しく、大抵はロックかトゥワイスアップ(常温で水と1:1で割る飲み方)でちびりちびりと頂いています。
そうしているうちに、おこがましい言い方ですが、以前スコットランドへ行った時、観光そっちのけでウイスキー蒸留所を回った時のあの空気や匂いが鮮やかに蘇って来て、心地よい酔いがさらに体の隅々まで回っていく気がするのです。

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