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滋賀の酒蔵

2009.06.13

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去る6月9日~10日、長野県酒造組合青年部(通称「若葉会」)の研修旅行で、今年は滋賀県を回って来ました。

早朝出発し、まず蔵元見学で伺ったのが、琵琶湖の西岸に位置する高島市の上原酒造株式会社様。
ここでは専務の上原さんがお相手して下さいました。

見た目は小さな酒蔵ですが、酒造りに対するポリシーは太く大きく、大変感動させられました。
まずここの蔵元は、今の時代に逆行し、大半が山廃仕込み。
即ち、日本酒醸造では雑菌駆除のために欠かせない乳酸を「添加」するのではなく、天然の乳酸菌を取り込んで乳酸を生成させる、昔ながらのの手の込んだ製法を用いています。
更に驚いたのが、酵母無添加。
山廃仕込みは、今の時代、酵母そのものは添加するケースが多いのですが、こちらは家付き酵母を自然に増殖させる、これまた大変時間と労力とが必要な古来からの製法を取られていました。

続いて驚かされたのが槽場(ふなば)、つまりお酒を上槽する部屋です。
目に飛び込んできたのは、長さ5mもあろかという巨大な丸太と、見るからに使い込んである昔ながらの木の槽(ふね)。
初めて見ましたが、要はその木槽(きぶね)の中にもろみを入れた袋をびっしりと重ね、その上から天秤の原理で丸太で圧力を掛け、自然の力でお酒を搾り出す方法なのだそうです。
その「木槽天秤搾り」、通常の圧搾機より搾れるお酒の量は少ない分、出来上がったお酒は雑味のないきれいな味わいとなるそうです。

そしてもうひとつ、熟成に対する考え方も確固たるものでした。
山廃仕込みのお酒は一般的に味わいは太く旨味もしっかりと乗っておりますが、こちらのお蔵ではそんな個性をさらにしっかり主張すべく、ほとんどのお酒を1年以上しっかりと熟成されていました。
この日はすべてのお酒を利かせて頂いたのですが、確かに20BY→19BY→18BYと貯蔵年数を経るほど、それに比例してお酒の旨味や深みも増し、新酒とは明らかに一線を画す味わいでした。
ちなみに商品の一番のボリュームゾーンは3年熟成酒とお伺いして、これまた驚きの連続でした。

続いて今度はぐるりと琵琶湖を回りこんで、もう一件草津市の太田酒造様(メイン銘柄「道灌」)を見学させて頂き、その後向かったのは大津プリンスホテル。
ここでは滋賀県の蔵元で組織する「滋賀県技術研究会」の皆様がちょうどこの日に研究会を開催されていて、我々が滋賀まで足を運ぶということで、急遽合同の「長野県・滋賀県酒造交流会」をセッティングして下さったのでした。

全員が揃ったところでまずは両県の需要開発の報告を交互に行い、そのあとすぐに利き酒会。
滋賀県21蔵、長野県16蔵、この日集まった全蔵元が出し合った純米吟醸酒を片っ端からじっくりと利かせて頂きました。
舌の官能を鍛えるには、1本でも多くのお酒を目的意識を持って同時に利き較べる事が何よりの方法だと個人的には思っておりますので、これは絶好の機会と時間いっぱい勉強せさて頂きました。
そしてそのあとは懇親会。
私自身は滋賀県の蔵元さんとこのようにお話しできる機会は初めてだったので、好奇心丸出しでいろいろと話に花を咲かせて頂きました。

それとお料理に琵琶湖名物の「鮒(ふな)寿司」が出てきて、これは主催者がわざわざ我々のために用意して下さったそうで、好みは分かれるでしょうが、発酵食品大好きな私としては感涙に咽ぶひと品でした。
もったいなくて、発酵が進みつつある鮒の身を箸の先にちょこっと付けては、それを舐めながらお酒をくいくい。
これだけで杯が何杯も進んでしまいました。
最後は皮とそこに付いた身に至るまで食べ尽くそうと取っておいたら、ちょっと目を離している間にホテルのスタッフが皿を持っていってしまいしばし呆然。
顔は笑いながら心は泣いた一瞬でした。
私の鮒寿司を返せ!

写真上:上原酒造様/写真下:太田酒造様

「和田龍 新酒を味わう会」

2009.06.06

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去る6月3日(水)、毎年恒例の「和田龍 新酒を味わう会」を今年も上田市内のパーティ会場にて開催致しました。
本年で23回目を迎えるこの会、日頃から公私ともどもお世話になっているお客様100名をお招きして、今年もお酒やお料理や音楽を存分にご堪能頂きました。

開宴時間の午後6時半、乾杯の前にまずはゲストによる音楽をお楽しみ頂きます。
今年お招きしたのは昨年に引き続き、日本におけるエレクトーン奏者の第一人者、神田将(ゆき)さん。
昨年ご出席された大勢の皆様から熱烈なアンコールを受けて、再度のご登場です。

エレクトーンというと、まだ多くの方は結婚式場などでBGMとして流れるあのフカフカした音を思い出されるかと思いますが、現代エレクトーンは全くの別物。
最新の電子技術を駆使し、たったひとりでフルオーケストラの演奏をすべて表現し得る、最新鋭の楽器なのです。
その演奏を初めて聴かれた方は、圧倒的な表現力と音色とに衝撃を覚えること請け合いです。

この日神田さんに演奏頂いたのは次の5曲。
・歌劇「サムソンとデリラ」より「バッカナール」(サン・サーンス)
・歌劇「トスカ」より「星は光りぬ」(プッチーニ)
・歌劇「カバレリア・ルスティカーナ」より「間奏曲」(マスカーニ)
・「リバーダンス」(タップダンス劇「リバーダンス」より)
・「フィンランディア」(シベリウス)

これらの曲目が神田さんの軽妙なトークと共に繰り広げられ、エレクトーンの音色と神田さんのテクニックとに酔いしれた40分間でした。

そしていよいよ乾杯。
この日お出ししたお酒は下記の6点。
・和田龍大吟醸(冷蔵)
・登水(とすい)吟醸・原酒生酒(冷蔵)
・登水(とすい)純米・原酒生酒(常温)
・和田龍吟醸生酒(冷蔵)
・清酒和田龍(熱燗)
・和田龍にごり酒(冷蔵)

まず乾杯のお酒として「和田龍大吟醸」。
「新酒の会」ではありますがあえて1年半寝かせた「熟成酒」をお出しし、飲み頃のピークを迎えた大吟醸の醍醐味をお楽しみ頂きました。
お酒によって新酒で味わうもの、あるいは寝かせて味わうもの、そんなスタイルの違いがある事をお分かり頂ければと思いました。

続いて「登水・吟醸」と「登水・純米」は2本同時にお出しして、シャープな「吟醸」と柔らかな「純米」の味わいの違いを感じて頂きました。
特に「登水・純米」は、その膨らみを存分に感じて頂くために、「生酒」ではありますがあえて常温でご提供致しました。
冷たいままですと、どうしても甘さが閉じこもってしまい、このお酒の真価が発揮できないと思ったからです。

続いては当社の冷酒の定番、さらりと軽快で爽やかな「吟醸生酒」と、やはりすっきりした飲み口の当社のレギュラー酒「清酒和田龍」をこちらは熱燗にて、これまた同時にお出ししました。
今は燗と言うと「人肌燗」や「ぬる燗」に人気がありますが、「清酒和田龍」はその軽快な酒質からもあえて「熱燗」の方が真価を発揮すると考えまして、アツアツの「熱燗」にてのご提供です。

そして最後に「和田龍純米にごり酒」。
こちらはお肉やデザートと合わせて、締めの一杯としてお出ししました。
当社のにごり酒はあえて「にごり」をたっぷりと出しているので、こんなにごり酒は濃くて飲めないという方が半分、反面このにごり酒しか飲めないという方が半分の個性的なお酒です。
皆様はどうお感じになったでしょうか?

乾杯から場内は心地よいざわめきに包まれ、途中「和田龍グッズ」(「生酒グラスセット」・「和田龍エプロン」・「和田龍トートバッグ」・「和田龍豆樽」)が当たる抽選会を挟み、最後はアンコールによる神田さんの再度の演奏を聴きながら、時間を見ると時計の針は既に9時前を指しておりました。
皆様のおかげを持ちまして、今年も「和田龍 新酒を味わう会」が無事お開きとなりました。

皆様をお見送りしているとBGMとして流れてきたのが、神田さんの演奏による「タクシードライバー」のテーマソング。
個人的に大好きな1曲で、思わず心の中で「ブラボー!」を叫んでしまいました。

そしてそこからが更にサプライズ。
何と社長のお仲間がずらりとステージ前に勢揃いして、昨年も繰り広げられた、神田さんの伴奏による「青い山脈」の大合唱が今年も始まりました。
中には私がお招きした若いお客様の姿もちらほら。
大声で歌うその楽しげな皆様のお姿を拝見するに付け、何だかこちらまで無性に嬉しくなってきて、最後の最後にほっと緊張の糸が解けた一瞬となったのでした。

皆様のおかげで今年も無事終了した「和田龍 新酒を味わう会」、100名という大勢のお客様が集まって頂いた事への感謝の気持ちをしっかりと噛み締め、これからもおいしい日本酒をお召し上がり頂けるために頑張っていきたいと思います。

清酒の色

2009.05.30

お酒には色があります。
搾った直後のフレッシュなお酒でも、タンクの中を覗けばきれいな淡黄色が確認できます。
これが熟成を重ねていくと、タンク貯蔵でもビン貯蔵でも、少しずつ着色が増していきます。

熟成による着色の原因は今も完全には解明されていません。
しかし主に、清酒中の糖類とアミノ酸とが反応して着色物質を生み出す「アミノ・カルボニル反応」によるものとされています。

また、熟成中のお酒の温度が10℃上がると着色の速度は3倍速くなると言われています。
上でも触れましたが、糖やアミノ酸が多い、いわゆる濃度の高いお酒は、その速度は更に速くなります。
今、メーカーや酒販店がしっかり冷蔵管理をしているのは言うまでもなく品質管理が目的ですが、その中のひとつとして着色を極力押さえる事も含まれるのはもちろんです。

いずれにしましても、お酒には色はあるのです。
何が言いたいかというと、日本酒には程度の差こそあれ、ある程度の色があるのが自然で、決して無色透明ではない事をお分かり頂きたいのです。

お酒を無色透明で提供できるのは、ひとつに「炭素濾過」という技術を使うことに所以します。
「炭素濾過」とは、搾ったお酒に活性炭を入れ、炭素の表面に空いた無数の細かな穴に着色や雑味の原因となる物質を吸着させて、それをそっくり濾過してしまい、お酒に付いた色や雑味を除去する方法です。
同じお酒でも濾過する時期によって色や味は変わるので、その都度投入する炭素の種類や量を調整します。
この「炭素濾過」によりお酒は清澄でクリアな味わいとなりますが、炭素を入れ過ぎるとそのお酒本来の個性や味わいも削り取ってしまう、いわば諸刃の剣です。

昨今は、特にいいお酒になればなるほどこの炭素濾過を行なわない、即ち「無濾過」にこだわる蔵元が増えています。
蔵元の意識と醸造技術の向上、そして酒販店や消費者のニーズ、双方によって、搾ったまま極力手を加えないお酒が支持されるようになってきた事が一因です。
そして何度も申しますが、それに伴い「お酒には本来色がある」という事が一般的に認識されてきた事は本当に嬉しい限りです。

ちなみに弊社は、レギュラー酒クラスでは「炭素濾過」を行なっております。
広く顔の見えないお客様にも安定した品質のお酒をお届けしたいと思うからです。
しかし反面、炭素濾過を行なわないお酒は、多少の差こそあれ色があるにも関わらず、それに関するクレームが一切来ないのは本当に嬉しい限りです。
これは流通の先頭に立っている酒販店や飲食店の皆様がしっかりと説明して下さっている事と、消費者の皆様も日本酒を理解しようと勉強して下さっているおかげだと思っています。

酵母の話

2009.05.06

「酵母」は微生物です。
自然界にはそれこそ数え切れないほどの酵母が生息していて、その中から清酒製造に合った酵母が選び抜かれて「清酒酵母」として使用されます。

次に、清酒製造における「酵母」の役割をおさらいします。
米中の主成分である「デンプン」は、麹菌が生成する糖化酵素によって「ブドウ糖」に分解されます。
そしてその「ブドウ糖」を取り込んで、「アルコール」と「炭酸ガス」に変える(=アルコール発酵)のが「酵母」の役割です。

その「酵母」はどうやって手に入れるのですか?という質問をよく受けます。
回答ですが、大多数の蔵元は「日本醸造協会」が培養・頒布する、いわゆる「きょうかい酵母」を使用しています。
またその他に、県の研究機関が独自で開発した酵母を使用する場合もありますし、また蔵元が自社のお蔵から自ら酵母を分離して使用しているケースもあります。
長野県でも10年以上前に県独自の酵母として「アルプス酵母」が開発され、今でも日々改良が加えられています。

さて日本醸造協会が分離・培養するその「きょうかい酵母」、ひと口に「きょうかい酵母」といってもその性質によっていくつもの種類があります。
香りはどんな香りでどのような立ち方をするか、酸はどれくらい生成するか、アルコールの発酵力はどれだけあるか、味わいはどのように仕上がるか・・・言い換えれば、自社の製造条件や最終的に求める酒質に合った酵母をしっかりと選ぶことが大切です。

古くからあるもので有名な「きょうかい酵母」としては、長野県の宮坂酒造から分離・培養され現在もオールマイティに使われている「きょうかい7号」、熊本県酒造研究所で開発され吟醸系酵母として名高い「きょうかい9号」、仙台国税局の小川鑑定官室長が分離した「小川酵母」の名前でも知られ淡麗な酒質を生み出す「きょうかい10号」などが挙げられます。

またよく目にする「きょうかい701号」「きょうかい901号」「きょうかい1001号」といった「末尾に「01」が付く酵母は、それぞれの酵母を変異させた「泡なし酵母」です。
もろみや酒母で高泡が発生しないように改良された酵母で、高泡が出ないことによる作業の平易化という利点がある反面、泡の状態を目で見て判断するという旧来からの五感による方法を用いることがてきないという短所もあります。
今は「きょうかい酵母」の半数以上を「泡なし酵母」が占めています。

また最近では、新しい「きょうかい酵母」として分離あるいは認定される酵母も次々に誕生しています。
秋田県が開発し、日本酒の芳香成分のひとつであるカプロン酸エチルを多く生み出す「きょうかい1501号」、同じくカプロン酸エチル高生産性で酸の生成が少なく、近年とみに使用する蔵元が増えている「きょうかい1801号」などがその一例です。

酵母だけがお酒の味わいを決めるわけでは決してありませんが、ラベルに記された酵母の種類を確認しながら飲む一杯も、ちょっとだけお酒に対する知的好奇心が増した気がして楽しいかもしれません。

「登水・生酒」好評発売中

2009.04.19

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今年から期間限定で発売を開始した「登水(とすい)・生酒」、「純米酒」「吟醸酒」2種類とも、おかげ様で大変好評を頂いております。
柔らかく優しい「純米酒」、香り高くなめらかな「吟醸酒」、どちらも目指す酒質となった事もあり、以前も書きましたが信頼する酒販店様数社のご提案を受けて、今年は加熱処理をしない「生酒」の状態での発売に踏み切りました。
そしてどうせなら、搾ったそのままの味わいをお楽しみ頂きたいという思いから、アルコール度数を調整しない「原酒」のままの状態を残しました。

正直なところ、特に「原酒」で出荷したことに対しては「強すぎる」というご批判も覚悟していたのですが、お召し上がり頂いたお客様からは「飲んでみて、原酒のまま出したい気持ちがよく分かった」という多数のお声を頂き、大変励みになっています。

昨年度の「登水」は搾るまで苦しみの連続でした。
酵母が言うことを聞いてくれなくて、清酒製造というのは言ってみれば微生物がいかに気持ちよく活動できる環境を整えるかという事に尽きるものですから、酵母が思い通りにいかないというのは大変な問題なのです。
昨年は酵母の変調で、予定した日数が経ってもアルコール度数が上がらずに、しかしお構いなしに「酸」や「アミノ酸」といった酒質を左右する大切な成分は徐々に増えていくものですから、搾る時期を含めてもろみ管理に大変苦労をしました。

そんな思いを経ているので、今年は納得の行く経過で思い通りの酒質の「登水(とすい)」が生まれた事がことさら嬉しく、ぜひ皆様に飲んで頂きたい思いでいっぱいです。

冷蔵保存が必要な「生酒」ではありますが、特に「純米酒」の方はその特徴である柔らかさを存分に楽しんで頂きたいので、お召し上がり頂く際はあえて冷蔵庫から出してしばらく置いて、少し温度が上がったものをお楽しみ頂きたいと思います。
まさしくお米を思わせるふっくらとした味わいが舌の上に広がって、「純米酒」ならではのおいしさをご堪能頂ける事と思います。
常温でもおいしいと思いますし、ぬる燗にしてもいけますよ。
「生酒」をお燗するなんて「えっ」と思われるかもしれませんが、そういったおいしい飲み方のご提案も積極的に行なっていきたいと思っています。

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