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林真理子の矜持

2023.11.06

週刊文春で作家の林真理子が連載しているエッセイ「夜ふけのなわとぴ」(何度か改題あり)。

1983年以来連載を重ね、「同一雑誌におけるエッセーの最多掲載回数」をギネス認定された、同誌の歴史でもあります。

林真理子の作品をまったく読んだ事がない私も毎週欠かさず愛読している名エッセイです。

たった今、林真理子を読んだ事がないと申しましたが、唯一例外があります。

それは同じ週刊文春に連載された小説「不機嫌な果実」です。

ヒロインの女性が辿る不倫と愛欲の日々を、濃厚なベッドシーンともに描いた衝撃作で、私も当時、週刊文春が発売されるたびに貪り読みました(笑)。
そのリアリズム溢れる赤裸々な官能描写は当時大きな話題を呼びました。

この小説が単行本化された時に、林真理子のインタビューで感動した言葉があります。

それはインタビュアーからの「あれは林さんの実体験がもとになっているのですか?」という質問に対して「そう思わせるのが文字を職業としているプロのプライドです」、林真理子は確かそのようなひとことを返したかと思います。

これぞプロの矜持と、感動したことをよく覚えています。

さて、その林真理子のエッセイです。

筆者自身が日頃感じている事、身の回りの実体験、こんな美食をしちゃった自慢やこんな有名人に会っちゃった自慢・・・読者に楽しんでもらうべく、さまざまな出来事を文章にしているのですが、実は林真理子があえて一切このエッセイで触れてこなかった事があります。

それはお嬢様の話題です。

ご主人の罵詈雑言はそれこそ山ほど出てくるのですが(笑)、お嬢様のことは、本当にごくごく稀に「娘が」と、そっと隠れるように書かれるのみで、基本的に登場する事はありません。

たぶんこれは林真理子自身が、このエッセイを書くにあたって自身に課したノルマなのでしょう。

同じように最近、このエッセイを読むに当たって、あえてこの話題は書くまいと自身に禁忌を課していると思われる内容があります。

それは日大の一連の騒動についてです。

ご自身が理事長を務めていらっしゃるのですから、書きたい事、訴えたい事、反論やご主張は山ほどあるはずです。

しかしここ数回の連載を読んでも、楽しく笑える内容の裏に、世間を賑わしているこの話題には徹頭徹尾触れないという、強固な意志が見えてくるのです。

そして林真理子のこの姿勢を、私は大変評価しています。

書きたい事はたくさんある、書けば楽になる、そんな思いを封印して、あえて苦しみを表に出さない茨の道を選んだ、これまた林真理子の矜持を、私は熱烈に支持致します。

ただ私の解釈がはなから間違っていたら、林真理子先生、ごめんなさい。