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オールナイト上映

2014.04.22

仕事が一段落して時間が空いた日の夜、たまには映画でも観ようかと近くのシネコンのラインナップを見て唖然。
観たい映画がひとつもない。

何でもいいからと無理やり観たい映画を探すのですが、本当に1本もないのです。

こうなったら意地になって「ドラえもん」か「仮面ライダー」でも観てやるかとさえ思ったのですが(それはそれで興味はある)、う~んと唸って、結局その日は夜の街に出掛けてしまいました。

馴染みの酒場のカウンターで燗酒を傾けながら思い出したのが、東京で住んでいた頃のオールナイトの映画の思い出。
あの頃は終電を逃すと、歌舞伎町周辺の映画館へよく潜り込んだものでした。

そして思い返すと、眠い目をこすりながら観たオールナイト上映の映画って、今でも鮮烈に心に残っている1本が多いのですね。

新宿ピカデリーで観た「キリングフィールド」。
カンボジア内戦でクメール・ルージュ(当時、字幕では「赤色クメール」と訳されていた事をよく覚えています)が支配する中、アメリカの新聞記者とクメール・ルージュに捕らえられた現地通訳との離別と再会とを描いた作品ですが、あまりの衝撃で眠気が吹っ飛び、ラストの「IMAGIN」が流れる中で号泣している自分がいました。

当時、連日オールナイト上映していた新宿グランドオデヲンで観た原田知世の「愛情物語」と薬師丸ひろ子の「メインテーマ」の2本立て。
世代がかぶっていたせいか、あるいは酒で酔っていた事もあってか、2本の青春映画は思いのほか私の心の核を突き、薬師丸ひろ子が歌うテーマ音楽は映像と共に今でも耳の奥に残っています。

でも、オールナイト上映でこれだけは語らない訳にはいかない1本が、蒲田にっかつで観た某にっかつロマンポルノ(タイトルはあまりに恥ずかしくて書けないのでご勘弁を)です。

当時20代そこそこで青春真っ盛りだった私は、もちろんヨコシマな理由でにっかつ映画館の入口をくぐったのですが、その作品のあまりの面白さにヨコシマな気持ちはいつの間にか消え失せて、スクリーンにぐいぐいと引きずり込まれる映画のパワーに心の中で快哉を叫んでおりました。

その監督こそ滝田洋二郎。

そう、にっかつロマンポルノから「もうコミック雑誌なんかいらない」で一般映画デビュー。
その後「眠らない街 新宿鮫」「お受験」「陰陽師」そしてあの「おくりびと」まで、数々の傑作を生み出した滝田監督だったのです。

ちなみに私が滝田作品で大好きな1本が「僕らはみんな生きている」。

当時「ビッグコミックスピリッツ」で私も愛読していた山本直樹の人気マンガを映画化したものですが、新宿ピカデリーの座席では、まさしく報復絶倒、あまりのおかしさに涙がちょちょ切れる約2時間でした。
そしてその面白さはあの日観た蒲田にっかつでの思いを彷彿させるものでもありました。
真田広之、岸辺一徳、嶋田久作、ベンガルというキャスト(ね、それだけでも観たくなるでしょ?)の妙も併せて、それからもレンタルビデオ等で繰り返し観ては腹を抱える毎回です。

話は戻って、オールナイト上映の映画館。

朝5時頃、最終回の上映も終わり、眠い目を擦りながら映画館を出ると既に夜が空けています。
打って変わって閑散とした繁華街、白々と射し込む太陽の光、そんな光景に包まれると、これから始まろうとしている1日に自分だけが取り残されたような虚無感に襲われて、それがまた若い頃のひとつの思い出として、今も肌と脳裏に染み込んでいます。