東京で泊まったホテルでのささやかな、けれどとても嬉しかった出来事です。
今回ご紹介するのは品川区のTPホテル。
このホテルは駅からは少し歩きますが、そのシックな佇(たたず)まいと、最近とみにレベルアップした心地よいサービスとに魅かれて、折に触れ利用する一軒です。
さて、このホテルの通常のチェックインは午後2時からですが、今回私が使ったプランは午後4時からのチェックインとなっていました。
しかしこの日は私の時間の調整が難しく、荷物だけでも置きたいと、無理を承知で午後2時過ぎにホテルに到着しました。
チェックインの際、フロントで私を出迎えてくれたのは「見習い」のネームプレートを付けた若い女性でした。
「見習い」なので不慣れかもと思った私は、あとでその思いを恥じる結果となります。
彼女に名前を告げ、まずは早く到着してしまった事を詫びました。
そして「チェックインの手続きだけして頂ければ、あとは館内のラウンジででも時間を潰しています」と伝えたところ、彼女は笑顔でこちらを見つめながらひとこと。
「お待ちください。お部屋の用意が出来ているか、すぐに確認致します」
待つことしばし、彼女は画面からその笑顔を上げざまに「和田様、お部屋の準備が出来ておりますのでお入り頂けます」。
その言葉がどれだけ暖かく感じたことか。
そしてたったこれだけの事でさえ出来ないホテルが最近多いのですよね。
意地悪くチェックインさせてもらえなかったり、あるいはチェックインさせたことを恩着せがましく言われたり。
しかし彼女はたった数分で、ひとりの宿泊客の心を掴んでしまったのです。
さて、今度は私がホテルに恩返しをする番です。
昼食を取り損ねていた私は、どこか外で食べようと思っていたランチを急遽ホテル内のレストランで取ることにしました。
早速レストランのあるロビーラウンジに降り、フロントの前を横切ると、先ほどチェックインをしてくれた彼女と目が合いました。
その瞬間、数メートル手前のこちらに届くような大きな声で「和田様、先ほどはありがとうございました!」と、これまた嬉しい言葉を掛けてくれました。
私も次のように返しました。
「先ほどはありがとうございました。本当に助かりました。せめてもの感謝の気持ちで、空いた時間で館内のレストランを使わせて頂きます」
向かった先のレストランでの暖かなサービスも併せて、この日のランチが大変心地良かったことは言うまでもありません。
さて、今度はチェックアウトの時の事です。
私を担当してくれたのは若い男性でしたが、隣のブースでは顔馴染みの女性スタッフが他のお客様の対応をしていました。
まずは向かいの男性に「ありがとうございました」と快適な滞在のお礼を述べると、隣の女性スタッフが目配せでお礼を返してくれるのが分かりました。
何だかそれだけで心躍りますよね。
手続きを待っている間、接客を終えたその女性も会話に加わり、しばし雑談に花が咲きます。
そして唐突に「昨夜はお嬢様のお誕生日だったんですね。おめでとうございます」とふたりから言われた時には、驚くと共に大変感激致しました。
実はこの話題は、昨日チェックインの際に「見習い」の彼女と交わした会話の中のものだったのです。
その嬉しさは、もちろん「おめでとう」と言われた事に対してもですが、それ以上に、昨日の女性からそのような細かな情報まできちんと引き継がれていた事に対してのものでした。
立ち去り際にフロントの男性から「またのお越しをお待ち申し上げております」と言われたのに対し、私はいつも以上の気持ちを込めて「ぜひまた伺わせて頂きます」と返答した、爽やかな朝のひとときでした。