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サービスの本質とは?

2010.11.11

ホテルに泊まるのが好きです。
例えば出張の際は、エリアや利用時間に応じて何軒かのお気に入りのホテルを使い分けています。

今日はそんなお気に入りのホテルの、ちょっと残念だった話をします。

東京都中央区にあるRホテル。
館内の快適な施設やおいしい食事はもちろんですが、何よりも私はこのホテルのホスピタリティ溢れるサービスが大好きで、いつも利用できる機会を伺っています。

このホテルのサービスに関して思い起こすと、こんな事もありました。

夜遅くチェックインした時の事。
何気なく冷蔵庫を見ると、前の客が記入した飲み物のチェックシートがそのまま残っています。
すぐにフロントに電話をして事情を説明すると即座にお詫びがあり、しばらくして部屋のベルがなりました。
ドアを開けると、初老のスタッフがお皿いっぱいに乗ったフルーツのワゴンと共に立っています。

感激したのはそのワゴンフルーツではなく、立っていたのがその頃メディアでもたびたび登場していたホテルのN支配人だったからです。
しかもネームプレートにはフルネームだけ書かれていて「支配人」とは記されていません。
その瞬間、即座にこのホテルのサービスの「精神」を感じ取ったものでした。

さて、話は飛んで、今年の8月に宿泊した時の事です。

早朝にレストランへ足を運び、ここの大好きなバイキングに舌鼓を打っていると、レストランのマネージャーがスタッフを叱り飛ばしている声が聞こえてきます。
それも一度や二度ではなく、それこそコーヒーを飲み終わるまでずっとです。
しかも口調が「××しろ!」とか「何、××してるんだ!」とか聞くに絶えないもの。
およそRホテルの空間とは思えません。
そっとフロアの女性を呼び止め、マネージャーの名前を聞いて、あとで正式に苦情を申し伝えました。
ささやかな出来事とはいえ、これが最初のつまづきでした。

次に宿泊したのは10月の上旬。
この時は悲惨でした。

まず、到着してエントランスからチェックインカウンターに向かうまで、数多くのスタッフがいるのに誰一人として声を掛けてくれない、こんな事は初めてです。

いざチェックインカウンターの前に立っても、フロントの若い男性は声を掛けないどころかこちらに顔も向けない。
私も意地になって黙ったままそこにしばし立っていましたが、まるで自分が透明人間になったかのようです。

怒りがふつふつと沸いてきた頃、私の後方にあるコンシュルジュデスクの女性が私の存在に気が付いてくれ、ようやくフロントへ取り次いでくれたのですが、若いフロント係は一連の対応に苦情を言っても暖簾に腕押し、まるでロボットのようです。
手続きを終えて鍵を受け取りエレベーターに乗るまで、コンシュルジュの女性がお詫びかたがたアテンドしてくれたのが唯一の救いでした。

そして更に驚くことに、それから翌朝チェックアウトするまで、すれ違う多くのスタッフからはひと言の挨拶もなし。
それこそ何往復もロビーラウンジやフロントの前を通ったのですが、いつもでしたらスタッフとすれ違うたびに「こんばんは!」とか「おはようございます!」とか「いってらっしゃいませ!」とか掛けてもらう気持ちのよい挨拶が今回はひと言もありません。
目が合っても素通りです。
私も、いつもならばそれに対して必ず元気な挨拶を返すのですが、今回に限って言えば私はこれまた完全な透明人間状態です。

さすがにあきれて、部屋に備え付けのアンケートに率直な感想を記入し、チェックアウトの際も、このたびの宿泊にどれだけ失望したかを申し伝えました。
正直言って、もうこのホテルを使うのはこれっきりとも思いながらホテルを去ろうとしたその瞬間、ひとりのスタッフから声を掛けられました。

差し出された名刺を見ると、そこには「フロントレセプションマネージャー」の文字。
要はフロントの責任者です。
彼曰く、実はチェックインの時、他のお客様のお世話をしながら私への対応の一部始終を見ていた、そしてそれがどれだけ不誠実な対応であったか恥ずかしい思いでいっぱいだ、ついては深くお詫びしたい、そんな内容を述べられました。

このひと言でどれだけ救われたか、私は彼に再訪を約束し、次回は楽しみにしていますと伝えてホテルをあとにしました。
ちなみに後日、支配人名で丁重なお詫びの手紙も届きました。

が次回、その期待は裏切られました。

マネージャーとの約束を守ろうと、そしてどれだけホテルの対応が変わったかを楽しみにしながら、今月の上旬に再度Rホテルを予約しました。

このクラスのホテルであれば当然このたびの一連の出来事は私の履歴に残っているでしょうし、あえて間を置かず再訪した私の思いをマネージャーはじめスタッフはしっかり汲んでもらえるものと思っていました。

しかし私は甘かった。
到着からチェックインまでひと言も挨拶がないのは前回と同じ。
そして運の悪いことにチェックインを担当したのは前回のロボット君でした。

私が今回期待したのは、チェックインの際たったひと言「前回は失礼しました」という、そのお詫びの言葉でした。
それさえあれば満足でした。
「今回は挽回しますのでごゆっくりお過ごし下さい」、そんな言葉が掛けられることを楽しみにしていました。

しかしフロントの彼は、今回も能面のような顔でひと通りの手続きを済ませ、あっさりと私を客室へ送り出しました。
聞けば例のマネージャーは今日は休みを取っているとの事。

本音を言えば客室のグレードアップも少しは期待していました。
もし私が逆の立場だったらそうします。
しかし与えられたのはオーダー通りのシングルルーム。

さらに、客室に入ってすぐに頼んだ夕刊は、次の予定のため30分後に出発するまで結局届けられず。
しかも電話をしたら忘れ去られている始末・・・。
そしてこの日も結局、ロビーを右往左往しているスタッフからは挨拶の言葉ひとつ掛けられる事はありませんでした。

翌日は館内で朝食を取る気持ちも萎え、外での朝食を終えて、それでもと思ってフロントで問い合わせると、件のマネージャーは出社していました。

早速彼を呼び出し、しかし椅子ひとつ勧められずフロント前で立ったまま、私は今回の残念な思いをそのマネージャーにぶつけました。

私はこのホテルのホスピタリティ溢れるサービスが大好きだったのに、それは一体どこへ行ってしまったのか?
クレームを述べた客がすぐに戻ってきたのに、なぜ「前回は申し訳ありませんでした」のひと言がいえないのか?

このホテルが大好きだからこそ、今回このような思いの丈をぶつけた気持ちをマネージャーは汲んでくれたでしょうか。

部屋に入るとすぐにマネージャーから電話がありました。
「チェックアウト時間を延長させて頂きますのでごゆっくりお寛ぎ下さい」
この思いを最初から見せてくれていれば、今回の滞在は随分と違った気分になっていたはずです。

私は帰ってから、性懲りもなくまた次回の予約を入れました。
ネットのコメント欄にはマネージャー宛てのメッセージも残しました。
予約を入れてから一週間、しかし彼からの返信はまだ届いていません。