タイトルの「マリアカラス」、今回はソプラノ歌手のマリア・カラスではなく料理のマリア・カラスのお話です。
先日、東京六本木「レストランヴァンサン(VINCENT)」で、とある記念のパーティがありました。
この「レストランヴァンサン」のオーナーシェフ城悦男氏は、私にフレンチの世界の素晴らしさを知らしめて下さった方であり、いつもお目にかかるたびにその人間的な魅力に引き込まれています。
さてこの日のパーティ、主催者に促されて乾杯の音頭を取った城シェフの挨拶が素敵でした。
「今のこの時代、料理にしても何にしても、ともすれば時代の最先端を行こうとして、そのスタイルは刻々と変化しています。しかしそんな中、私は何と言われようと、自分が学んだ古き良き時代のクラシック・フレンチのスタイルを変える事なく、これからも頑張っていきたいと思います。乾杯!」
料理もその言葉通り、ソースと食材とがしっかりと融合したクラシック・フレンチの王道を行くものでした。
私がこのお店に行く時は必ず予約する2品もしっかりと登場しました。
アミューズ・前菜に引き続いて登場したその1品目は、まず個人的に日本で一番おいしいと思っているコンソメスープ。
この日コンソメは「牡蠣のコンソメ ロワイヤル風」でした。
何日も手間隙かけて出来上がる黄金色に澄み切ったコンソメ、そのカップの下にぶつ切りの牡蠣を浮かべた洋風茶碗蒸しが沈んでいます。
運ばれてきた瞬間からテーブル一帯にコンソメの芳香が漂い、ひと口運ぶと、ブイヨンや野菜の味わいが渾然一体となったその清澄な味わいに陶然とします。
そしてしばらくするとブイヨンから出るコラーゲンが唇をペタペタと覆い、これが城シェフのコンソメである事を実感するのです。
そしてもう1品が、魚料理に続いて出された城シェフのスペシャリテ「子羊のパイ包み・マリアカラス風」です(写真)。
これは城シェフがパリの「マキシム・ド・パリ」で修行していた時に、実際にマリア・カラスがリクエストして好んで食べた料理です。
また城さんが帰国後、銀座「レカン」でシェフを務めていた時に、現在「シェ・イノ」の井上旭シェフとともに、押しも押されぬひと皿にした事でも有名です。
写真でお分かりの通り、子羊の真ん中にフォワグラを詰め、周りにパイを巻いて火を通すのですが、この火加減が絶妙!
しかもそこにかかった黒トリュフの入ったペリグールソースがこれまた素晴らしくて、城シェフの別名「ソースの城」の面目躍如です。
ミディアムレアに焼けた子羊はジューシーで肉汁あふれ、パイのサクサクとした食感、そして香り高く芳醇なソースの味わいとあいまって陶然、最後はソースの一滴までパンで掬い上げて食べてしまい、あとに残るのは洗ったかのごとくピカピカの皿のみです。
その後もフロマージュ、デザート、プティフール(小菓子)と続き、午後7時前から始まったパーティは時計を見ると午前零時。
心地よい余韻を残しながら、本当にあっという間のひとときはお開きを迎えたのでした。