将棋の棋聖戦が始まりました。
タイトル保持者、藤井聡太棋聖に、盟友である永瀬拓矢王座が挑戦する五番勝負の第1戦は、二度の千日手の激闘の末、永瀬王座が勝利しました。
その永瀬王座、私はちょっとだけ気になることがあります。
それは永瀬王座が、将棋のタイトル戦の正装ともいえる和服を身に付けないことです。
基本的にいつもスーツのみ。
通常の対局では問題ないのでしょうが、タイトル戦という晴れの舞台で、将棋の美しさ、貴賓さをアピールする絶好の機会に、和服を着用しない理由が何かあるのでしょうか。
以前は永瀬先生もタイトル戦で和服を着ていました。
ただし対局の前半だけで、後半はやはりスーツに着替えての対局でした。
何かのインタビューで、永瀬先生ご本人がこの件に触れていたことがあります。
曰く、タイトル戦でのスーツ着用を対戦相手に断っていた時もあったが、毎回その事に気持ちと時間を割くのもいかがなものかと思い、最近はこの件にあえて触れなくなった、といった趣旨だったと思います。
個人的には将棋のタイトル戦の品格を保つためにも、永瀬王座にはぜひ和服を着て頂きたいと思っています。
永瀬先生とその将棋には、それだけの魅力が溢れていると思っていますので。
それとも和服を着用しない特別な理由が何かあるのであれば、このような勝手を申し上げた失礼をお許しください。
以前もうひとり、確信的にタイトル戦にスーツ着用で臨んだ棋士がいました。
島朗九段。
当時新設されたばかりのタイトル戦の最高峰、第1期竜王戦で、米長邦雄九段を相手に、島先生は全局スーツ姿で通し、見事4連勝で竜王位に就きました。
ただこの時は、島先生は将棋界きってのファッション通として知れ渡っており、ブランド品の高級スーツを対局ごとに変えて着用したのも、自身の美学を貫き通すための戦略でした。
そのため、このスーツ作戦(?)は内外ともに好意的に認知され、米長先生は将棋も服装も普段とは違った島先生の感覚に翻弄(ほんろう)されたそうです。
スーツ姿でタイトル戦を戦った棋士がもうひとりいました。
加藤一二三先生。
名人戦の中原誠名人との最終局。
詰みを発見した瞬間に「うひょーっ」と奇声を発したという逸話とともに、念願の名人位を奪取した時の加藤先生のスーツ姿は、今も多くの将棋ファンの目に焼き付いています。
愛すべき加藤先生は将棋界の常識を逸脱し過ぎていて、何だかもう、すべてが許されてしまうんですよね。