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苦汁の決断

2008.08.26

秋を目前に向え、清酒はいよいよ「ひやおろし」の時期になって参りしまた。
「ひやおろし」とは、冬に造った清酒をひと夏越えて寝かせ、秋口に入ってほどよい熟成状態で出荷する清酒のことを言います。
そして、酒税法上の厳密な決まりはありませんが、通常は、お酒を搾った直後に一度だけ「火入れ」をして出荷前には「火入れ」を行なわない「生詰」の状態のものを指します。

ちなみに清酒は普通、搾った直後に一回、そして出荷前にもう一回、合わせて2回「火入れ」と呼ばれる加熱処理を行います。
対して、一度も「火入れ」を行なわないものを「生酒」と呼び、搾った直後の「火入れ」は行なわず出荷前のみ「火入れ」を行なうものを「生貯蔵酒」と呼びます。
「生酒」「生詰酒」「生貯蔵酒」の違いはそこにあります。

さて、その「ひやおろし」ですが、弊社は今年も悩んだ末に発売を見送りました。
今「ひやおろし」は清酒の需要拡大のために、長野県酒造組合も発売日を9月9日に統一するなど業界上げての取り組みとなっています。
ですので当然弊社としても追従しなければならないのは山々なのですが、ではなぜ発売を見送ったか?
「ひやおろし」として製造・貯蔵したお酒がないからです。

上で申し上げた通り、「ひやおろし」の定義は「ひと夏越えて熟成したもの」そして「生詰酒」、たったこれだけですから、この条件に合致するお酒はもちろんあります。
でも、仮にその商品に「ひやおろし」の肩書きを付けて発売した時に、従来の商品と何が違うのか、この説明を自信を持ってすることができないと思ったのです。

例えば同じお酒でも、通常は冷蔵貯蔵しているものを、「ひやおろし」で出荷することを念頭に置いて一部を常温で熟成した、そしてその結果秋にこそ飲んでふさわしい味わいに熟成した、これならば胸張って商品として出荷できます。
そして多くの蔵元さんは、方法は違っていても、このように「ひやおろし」として出荷することを目的として、それ用のお酒を貯蔵管理している事と思います。
弊社は少量少品種のため、特に特定名称酒は一種類の数量が限定されていることもあって、それを更に「ひやおろし」として枝分けするという事が物理的にも気持ちの上でも困難なのが実情です。

ただ、「ひやおろし」を出してほしいというお客様の声がここに来て多く届いているのも事実です。
今年はこのような苦汁の決断をしましたが、来年は秋口にたっぷりと旨味が乗った「ひやおろし」のお酒を前向きに検討していきたいと思っています。