六本木にあるフランス料理店「レストラン ヴァンサン(Vincent)」をご紹介致します。
シェフの城悦男氏は、ヨーロッパ各地のレストランで研鑽を積んだのち日本に戻り、グラン・メゾンの誉れ高い「銀座レカン」で井上旭氏とともに長年シェフを務め、その後独立して1995年、現在の地に「ヴァンサン」をオープン致しました。
旬の素材を惜しげなく使い、クラシック・フレンチの王道とも言える各種のソースをしっかりと絡ませた料理の数々は、多くのファンを魅了しています。
そのソースのあまりのおいしさに、お皿が厨房に返って来る時にはきれいにピカピカになって戻ってくることから、「ソースの城」の異名も取っています。
私がこのお店に通い始めたのは、かれこれ十数年以上前になると思います。
たまたま、ボルドーの「シャトー・コスディストゥルネル」のオーナーが来店したパーティに身分不相応にも参加させて頂き、その時初めて口にした城シェフの料理の虜になったのでした。
その後も、まだ社会人に成り立てで収入も少ない中、お金を掻き集めては「ヴァンサン」の空気とそして城シェフのひと皿ひと皿を味わいに行きました。
今でも身分不相応の思いはありますが、それでもその世界のトップに触れる経験はきっと大切なことと信じて、できるだけ足を運ぶ機会を作りたいと思っています。
思い出深い料理はたくさんあります。
初めて伺った時に食べた「牛尾の赤ワイン煮込み」、城シェフが「レカン」時代に発明した「子羊の背肉パイ包み焼き・マリアカラス風」、その時は土のイメージが共通するということで贅沢にもコルトンシャルルマーニュをソースに使った「白アスパラとオマール」、数日前に完成したばかりとおっしゃりながら出して頂き大いに感激した「スズキのゲヴィツトラミネールソース仕立て」、冬のジビエの時期には特に味わいが格段に増す火の通し方がいつも絶妙な「鹿肉のソテー」・・・挙げ始めたらキリがありません。
でももう一品、これだけはどうしても外せないというひと品があります。
それは城シェフが作るコンソメスープ。
手間隙を惜しまず贅沢に作られたコンソメは、運ばれてきた瞬間、黄金色に輝く透明な色合いと、そして立ち昇るふくよかな香りとにまず目と鼻を奪われます。
そしてひと口味わうと、透明感溢れる味わいの中に肉と野菜のエキスがバランスよくそして上品に抽出されていて、その圧倒的なおいしさと共に、コンソメという料理の奥深さに心地良く叩きのめされるのです。
城シェフは料理の合間に手が空くと厨房から客席フロアに現れて、満面の笑顔と共に各テーブルを回って挨拶をされます。
常連さん、初めてのお客様、分け隔てなく回っては声を掛けられ、そんなシェフの姿や会話を楽しみながら、テーブルの料理はより一層おいしさを増すのです。
とかく「現代風」と銘打ったフレンチが多い中、ここは私が大好きな「クラシックフレンチ」の一軒です。