東京のホテルに泊まったら、机の上に私の名前入りのカードと洋菓子が置いてありました。
何かと思ったら、私の誕生月のプレゼントでした。
カードの内側には、印刷された文字で
「お誕生日おめでとうございます。
あなたの毎日が幸せにあふれた日々でありますように。
〇〇ホテル
宿泊支配人
〇〇 〇〇」
と書かれていました。
でもこれって素直に喜べるサービスかと言われれば、定型化されただけのマニュアルに過ぎず、驚きはしましたけど、過度の嬉しい思いは湧きませんでした。
以前、私がもうひとつ都内で定宿にしていたホテルでは、部屋に入ると、顔馴染みのフロントレセプションの男性による手書きのカードがいつも置いてあって、たった一文のその「ウエルカム」の思いに毎回心が暖かくなったものでした。
ただその男性が系列の別のホテルに異動したあとのサービスの落差に愕然として、以後そのホテルには泊まらなくなってしまいましたが。
また、かなり前ですが、水天宮のロイヤルパークホテルに泊まった時の出来事です。
遅い時間にチェックインして部屋に入ったところ、冷蔵庫の横には、前の客が書いたままのドリンクのチェックシートが残っています。
少し迷った末にフロントに電話をして事情を話し、「決して気持ちのいいものではないのでお伝えだけしておきます」と言って電話を切りました。
部屋のベルがなったのはその直後でした。
ドアを開けると、山盛りのフルーツが乗ったワゴンを押した男性が立っています。
驚いたのはその山盛りのフルーツに対してではありません。
ワゴンを押してきたのが、ロイヤルパークをサービスに定評のあるホテルとして確固たる地位に築き上げた中村支配人、その方だったからです。
写真では見知っていたあの中村支配人が、たかがこれだけの電話に対して、自らワゴンを押して来て下さるとは。
「支配人 中村」のネームプレートの眩しさに感動しながら、心のこもった支配人のお詫びの言葉を胸に焼き付けていた私でした。
最初のバースデーカードも、支配人直筆の署名ひとつ、あるいは手書きの「おめでとう」の言葉ひとつあれば、随分違ったものになっていたでしょう。
結局は、人の心を動かすのは「物」ではなく「人」なんですよね。