清酒の製造工程で分かりにくい点のひとつに、原材料の「米・米麹」がどの段階でどのような用途で使われるのかという事が挙げられます。
今回はこの点をざっと簡単に説明致します。
まず「米麹」とは何でしょう?
「米麹」とはお米に麹菌を繁殖させたものです。
最良の「米麹」を作り上げるために、蔵人はそのつど麹室(こうじむろ)の中で丸2日間ほど寝ずの番をして、徹底した乾湿管理と温度管理のもと、目指す品質を完成させます。
続いて、酒造りにおける原料米の処理過程を記します。
玄 米
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精 米:お米を削ります。
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洗 米:お米を洗って研ぎます。
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浸漬/水切り:お米を水に浸し、吸水させた上で、水を切ります。
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蒸 米:お米を蒸します。
ここまではどのお米も一緒です。
ちなみにそれぞれの過程に、それを行う大切な理由があるのですが、今回はそれは割愛します。
ここからお米は、その用途によって「麹米」と「掛米(かけまい)」とに分かれます。
以下の通りです。
・麹米:先程も説明した、米麹を作るための、麹を繁殖させるためのお米です。
・掛米:蒸して、そのまま使用するお米です。
さて、お酒の仕込みの一般的な方法は、まずもととなる酒母(前々回に説明)を作り酵母を大量に増殖させ、その酒母をもとにして今度はもろみを仕込みます。
その仕込み方法ですが、米麹・掛米・水とを3回に分けてタンクに入れ(酒母は初回に全量入れます)、最終的に目指す物量に満たしてそこからいよいよ本格的な発酵が進んでいくという過程をとります。
仕込みを三回に分けるのは、清酒のもろみは仕込み中に空気と触れている、いわゆる開放発酵であるため、一度に満量にしてしまうと、せっかく酒母中で増殖した大量の優良酵母と殺菌のための酸とが薄まってしまい、空気中の野生酵母に汚染されてしまう可能性があるからです。
そのためもろみの仕込み方法として、1日目(「初添え」といいます)、2日目は酵母の増殖を待つために1日休みを取り(「踊り」)、3日目(「仲添え」)、4日目(「留添え」)といった形で、優良酵母の絶対的な数的有利を保つ方法で物量を増やしていくのです。
この清酒独特の仕込み方法を「段仕込み」と呼びます。
整理します。
それぞれの段階で使用される「米」の用途を書き出してみます。
酒 母←酵母・乳酸(速譲系酒母の場合)・麹米・掛米・水
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<酒母の完成>
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もろみ
1日目:初添え←酒母・麹米・掛米・水
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2日目:踊り(酵母増殖のため1日休み)
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3日目:仲添え←麹米・掛米・水
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4日目:留添え←麹米・掛米・水
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(20~40日)
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搾 り
これも以前に書き込みましたが、清酒製造の大きな特徴として、ひとつのタンクの中で「糖化」と「発酵」が同時に進行する「並行複発酵」が挙げられます。
即ち、麹米に繁殖した麹菌が作り出す「糖化酵素」が、「掛米」を含む米の主成分であるデンプンをブドウ糖に分解し(デンプンはブドウ糖が鎖状に繋がった高分子化合物)、そしてそのブドウ糖を今度は微生物である酵母がアルコールと炭酸ガスに分解するのです。
このふたつの過程が同時に進行していきます。
なので、もろみ中ではまず最初に多量の糖が生成され、その後は糖が少なくなるのに反比例する形でアルコールが生成されていくのです。
ちなみに同じ醸造酒でも、ワインは原料のブドウそのものに糖がふくまれているので「糖化」の過程がいらない「単発酵」、ビールは原料が麦なので「糖化」と「発酵」両方必要ですが、それぞれの過程が独立して行われる「単行複発酵」、それぞれ違った発酵形式を取ります。
また先ほど触れた、清酒のもろみは空気に触れている「開放発酵」である点、これもまた清酒醸造の大きな特徴のひとつであるといえます。